'不安'の動物モデル
今泉 正洋 (1)、小野寺憲治 (2)
(1) 京都大学大学院農学研究科応用生命科学専攻栄養化学分野
〒606-8502 京都市左京区北白川追分町
(2) 東北大学歯学部歯科薬理学教室
〒980-8575 仙台市青葉区星陵町4-1
要約: 不安の動物モデルは,いわゆる“Geller型”や“Vogel型”の抗コンフリクトテストや罰刺激を用いない測定方法であるlight/dark
test,hole‐board test,social interaction test,高架式十字迷路法など数多く報告されている.これらのモデルは,全て臨床で有用性が明らかなベンゾジアゼピン系抗不安薬が有効であることから,薬理学的に不安の測定系として認められている.しかし,近年臨床適用されるようになったセロトニン系抗不安薬の上記モデルにおける活性は必ずしも一致しておらず,これらには異なった種類の不安が含まれている可能性がある.アメリカ精神医学会による精神疾患の診断統計マニュアル第4版(DSM‐IV)には,不安障害として広場恐怖を伴わないパニック障害,広場恐怖を伴うパニック障害,パニック障害の既往歴のない広場恐怖,特定の恐怖症,社会恐怖,強迫性障害,外傷後ストレス症候群,急性ストレス障害,全般性不安障害,一般身体疾患による不安障害,物質誘発性不安障害,特定不能の不安障害について述べられている.上記障害の中には,ベンゾジアゼピン系抗不安薬で治療できない例も多く,これらの治療薬の評価のための動物モデルも重要である.例えば,高架式十字迷路から派生した高架式T字迷路で,ラットがエンクローズドアームからオープンアームに出るまでの回避潜時とオープンアームからの逃避潜時を測ることにより,条件恐怖と無条件恐怖を分けて測定し,後者によってパニック障害の治療薬を評価しようとする試みや強迫性障害のモデルとしてのビー玉埋め法なども報告されているが,これらの不安障害のモデルの確立は今後の課題である.
キーワード: 不安, 動物モデル, ベンゾジアゼピン, パニック障害, 強迫性障害
日本薬理学雑誌のページへ戻る