日薬理誌 115 (1), 21-28 (2000)


更年期不定愁訴と抗不安薬

鳥居塚和生、溝脇 万帆、花輪 壽彦

北里研究所東洋医学総合研究所臨床研究部
〒108-8642 東京都港区白金5-9-1

要約: 更年期不定愁訴は多彩で個人差も大きいが,のぼせ,ほてり,冷え性など身体的愁訴のほか,精神面では不安感,憂鬱,不眠などといった症状を呈する.閉経前後では卵巣機能の低下によりエストロゲンの分泌が低下し,視床下部からのGnRHや下垂体前葉からの卵胞刺激ホルモンなどの過剰分泌が起こる.この過剰分泌による調節機能の障害が自律神経に異常をきたし更年期障害の諸症状がもたらされると考えられている.性ホルモンが精神症状に及ぼす影響については,いまだに不明な点も多いが,女性においては性ホルモンのバランスが大きく変化する月経前,産褥期,更年期といった3つの時期に,月経前症候群(PMS),月経前不快気分障害(PMDD),マタニティーブルー,更年期不定愁訴など気分障害関連の症状を呈することが多い.その最も重症な時期においては,不安を伴う中等症程度のうつ状態を呈すこともあり,日常の社会生活に支障をきたすこともある.プロゲステロン代謝物をはじめとしたステロイド類の一群はGABAA受容体の調節をしていることが示されてきた.これらのステロイド類の一群はニューロステロイドと呼ばれ,GABAA受容体に結合することから気分障害や性行動,ストレス反応など情動反応への寄与が考えられている.脳内のニューロステロイドは性周期,妊娠,ストレス,性行動,記憶や加齢などの過程において生理的に神経伝達修飾作用を行っていると推定できる.未解決の部分が多くあるが,性ホルモン,ニューロステロイドなどは中枢神経系に作用しその機能を調節する役割を担っていると考えられる.

キーワード: 不安, GABAA受容体, 性ホルモン, 更年期不定愁訴, ニューロステロイド

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