不安の多様性とセロトニン神経系
辻 稔、武田 弘志、松宮 輝彦
東京医科大学薬理学講座 難病治療研究センター(創薬部門)
〒160-8402 東京都新宿区新宿6-1-1
要約: 近年,不安と脳内serotonin(5‐HT)神経との関連が注目されている.特に,5‐HT受容体サブタイプの一つである5‐HT1A受容体の役割が重要視されており,臨床においても,5‐HT1A受容体作動薬の抗不安薬としての有効性が認められている.しかしながら,前臨床研究において従来用いられてきた薬効評価法では,これら新規抗不安薬の薬効は必ずしも満足できる結果が得られていないのが現状である.このことは「不安の多様性」を浮き彫りにしているのかもしれない.近年,conditioned
fearとunconditioned fearといった異なったタイプの不安を同時に検出することを可能にした高架式T字迷路法が,新規の不安評価法として考案された.本法を用いた一連の研究結果より,5‐HT神経の投射路と種々の不安発現との関連性が明らかにされつつある.また,マウスの情動行動を指標としたhole‐board試験においては,ストレス刺激の負荷により誘発されるマウスの情動変化に対して,benzodiazepine(BZP)系および5‐HT1A系の化合物が全く異なる効果を示すことが明らかになってきている.このことは,情動を調節する上で,BZP受容体および5‐HT1A受容体を介した機構がそれぞれ,異なった役割を担っていることを示唆させるものである.したがって,今後,「不安の多様性」を念頭においた研究が重要であり,これらの研究の発展が不安障害の病態生理学的特徴の解明および新規の有効な治療薬の開発を試みる上で有用な情報を提供するものと考える.
キーワード: 不安, 中枢セロトニン神経系, 脳部位, 5‐HT1A受容体作動薬
日本薬理学雑誌のページへ戻る