日薬理誌 115 (1), 39-44 (2000)


不安障害とセロトニン受容体 

松本真知子、吉岡 充弘

北海道大学大学院医学研究科機能薬理学教室
〒060-8638 札幌市北区北15条西7丁目

要約: 不安障害に関わっていると考えられているセロトニン(5‐hydroxytryptamine: 5‐HT)受容体について現時点での知見を概説した.現在5‐HT受容体は,7ファミリ−に分類され,少なくとも14種類のサブタイプが存在している.このうち不安と最も関連性が深いとされているのは5‐HT1A受容体である.5‐HT1A受容体の部分作動薬であるブスピロンおよびタンドスピロンは,依存性の少ない有用な抗不安薬として現在臨床で用いられている.イプサピロン,ゲピロンなど抗不安作用を示す多くの5‐HT1A受容体作動薬は,5‐HTの遊離,合成あるいは神経発火を抑制する.また5‐HT1A受容体ノックアウトマウスでは不安が亢進する.これらの結果は5‐HT1A受容体を介した5‐HT遊離調節機構が不安の発現あるいは病態に深く関わっていることを示唆する.一方5‐HT1B受容体ノックアウトウスでは攻撃行動が増強する.5‐HT2および5‐HT3受容体拮抗薬は様々な不安モデル動物を用いた実験で抗不安作用を示す.アンチセンス法により5‐HT6受容体発現を抑制した場合も,不安による5‐HT神経過活動は減弱する.以上の結果は,5‐HT1A受容体以外にも5‐HT1B,5‐HT2,5‐HT3および5‐HT6といった多くの5‐HT受容体が不安障害に関わっていることを示す.これらの受容体が不安発現に直接寄与しているのか,あるいは不安により適応的に生じた5‐HT神経過活動を調節しているのかは明らかでないが,不安の病態生理に5‐HT神経系が重要な役割を担っていることは確かであろう.

キーワード: 不安障害, 不安モデル動物, 5‐HT受容体, 5‐HT1A受容体作動薬

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