日薬理誌 115 (1), 45-51 (2000)


アルツハイマー病治療薬塩酸ドネペジル(Aricept R)の薬理学的特性

小倉 博雄 (1)、小笹 貴史 (1)、荒木  伸 (1)、山西 嘉晴 (2)

(1) エーザイ(株)筑波研究所
〒300-2635 つくば市東光台5-1-3
(2) Eisai London Research Laboratories Ltd.
(Bernard Katz Building, University College London, Gower Street, London WC1E 6BT, U.K.)

要約: 記憶や認知機能に障害を持つアルツハイマー病患者では脳内のコリン作動性神経の異常が認められる.塩酸ドネペジルは新規骨格を有する抗コリンエステラーゼ剤で,アセチルコリン(ACh)の分解を抑制することにより脳内のコリン作動性神経を賦活し,アルツハイマー病の症状を軽減することを意図した薬剤である.塩酸ドネペジルはコリン作動性神経においてAChの分解に関与するアセチルコリンエステラーゼ(AChE)に対し強力な阻害活性(IC50値6.7 nM)を示した.経口投与により塩酸ドネペジルはラット脳内に良好に移行し,脳内AChEを低用量(0.625 mg/kg)から用量依存的に阻害し,脳内AChを増加させた.マイクロダイアリシス法を用いた検討では塩酸ドネペジルはラット海馬あるいは大脳皮質の細胞間隙AChレベルを2.5 mg/kgで上昇させた.一方,末梢の心臓や小腸のコリンエステラーゼに対してはほとんど阻害作用を示さなかった.ラットを用いた大脳基底部破壊による受動回避反応障害に対しては0.125〜1.0 mg/kgで,中隔野破壊による水迷路学習障害に対しては0.5 mg/kgで,更には抗コリン剤のスコポラミンによる放射状迷路の遂行障害に対しては0.5 mg/kgで,塩酸ドネペジルはこのような脳内コリン作動性神経の障害で生じる種々の学習課題の遂行障害に対し改善作用を示した.軽度および中等度のアルツハイマー病患者を対象とした臨床試験では塩酸ドネペジル(5および10 mg/日)は12週間および24週間の2つの試験において,いずれもその有効性が確認された.また副作用は少なく,更に作用持続が長いことから1日1回の服用で有効であることが確かめられた.このように塩酸ドネペジルは前臨床試験において示された有効性がアルツハイマー病を対象とした臨床試験で明確に立証された.

キーワード: 塩酸ドネペジル, 老年痴呆, アルツハイマー病, アセチルコリン, コリンエステラーゼ

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