日薬理誌 115 (1), 79-88 (2000)


アルツハイマー病の分子病態と治療薬開発への指針

武田 雅俊、篠崎 和弘、西川  隆、田中 稔久、
工藤  喬、中村  祐、柏木雄次郎

大阪大学大学院医学研究科神経機能医学・精神医学
〒565-0871 吹田市山田丘2-2


要約: 最近のアルツハイマー病病理過程の解明は,いくつかの創薬への戦略を指し示している.家族性アルツハイマー病の原因遺伝子として同定されたプレセニリンの機能が明らかにされた.プレセニリンはAPPやNotchの膜透過部分での切断に関与しており,APPのγ‐セクレターゼとして作用している.この知見は,アルツハイマー病治療薬としてγ‐セクレターゼを考えるとき,Notchシグナル系の抑制という副作用も考慮しなければならないことを示唆している.また,変異APPを導入したアルツハイマー病モデル動物(APP‐TGマウス)についてAβ42による免疫により脳内アミロイド沈着が抑制されるとの報告は,このような免疫反応によりアルツハイマー病におけるアミロイド沈着を抑制できる可能性を示唆するものかもしれない.FTDP‐17におけるタウ遺伝子変異の発見以来,アミロイド・カスケード仮説に限らず,直接タウタンパクの機能を回復することにより神経細胞脱落過程を抑制する戦略も考えられている.リン酸化タウに結合して,そのマイクロチュブル結合能を快復するproryl isomeraseはタウタンパクのリン酸化による機能障害を抑制する方法として,治療薬開発につながる可能性が考えられる.このようなアルツハイマー病の分子病態の理解は,確実にアルツハイマー病治療薬の開発に大きな指針を提供している.

キーワード: アルツハイマー病, アミロイド前駆体タンパク, プレセニリン, ノッチ, プロリルイソメラーゼ

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