日薬理誌 115 (1), 89-98 (2000)


生体位腎の実験薬理:cAMP 関連薬の腎作用

比佐 博彰

東北大学大学院薬学研究科薬理学分野
〒980-8578 仙台市青葉区荒巻字青葉


要約: 腎臓は細胞外液量の調節を介して循環器系の恒常性維持に寄与している.腎臓の様々な構成部位において,調節の機序が詳細に研究されている.しかし,それらが統合された腎臓の機能を理解し,循環器用薬の評価を行なうには,生体位の腎における検討が不可欠である.生体位腎実験系は,腎からの内因性物質の遊離を測定し,また,薬物を腎内へ選択的に投与することで,腎臓局所での生理反応と薬物の影響をより適確にとらえることができる.例えば,麻酔下イヌを用いた筆者らの最近の研究では,腎cAMPレベルの制御におけるホスホジエステラーゼIVの関与,腎cAMPレベルの変化による腎血行動態,糸球体濾過,および尿細管再吸収への影響,ならびに腎におけるアデニル酸シクラーゼ活性化薬とホスホジエステラーゼIV阻害薬の相互作用に関する知見が得られている.腎交感神経の活性は腎臓の機能を変化させる主要な生理的要因である.生体位腎実験系は,神経伝達物質の放出から始まる一連の腎機能変化の解析にも適用できる.筆者らは,アデニル酸シクラーゼ活性化薬が,腎神経活性上昇時の神経伝達物質の放出ならびに尿細管再吸収の亢進を抑制せずに,濾過能の低下に拮抗してNa排泄の低下を軽減することを見出している.以上の例に限らず,生体位腎実験系は腎臓の機能ならびに全身循環の調節を理解するために有用であり,薬物や生理活性物質の腎作用に関して,個々の部位での検討からは得られない重要な情報を提供している.

キーワード: 腎臓, 血行動態, 糸球体濾過, 尿細管再吸収, cAMP

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