日薬理誌 115 (3), 123-130 (2000)


新しい薬物療法としての核酸医薬

森下 竜一

大阪大学大学院医学系研究科遺伝子治療学
〒565-0871 吹田市山田丘2-2

要約: 核酸合成機で作成される短い核酸を用いた人工化合物の総称にすぎない核酸化合物は,アンチセンスオリゴヌクレオチドや転写因子制御法であるおとり(デコイ)型核酸医薬やリボザイムが開発され,注目を集めている.アンチセンスオリゴやリボザイムは遺伝子の相補性を利用し,特定の遺伝子の発現を抑制するために,目的の遺伝子とハイブリダイゼイションする核酸配列を持った人工的に合成した短い核酸を導入するものである.それに対し,デコイ型核酸医薬は特定の転写調節因子の結合部位への結合を阻害し,活性化される遺伝子群の抑制を行う.そのために,転写調節因子の結合部位を含む短い核酸を合成し,二重鎖核酸にした後に,細胞内へ導入する.アンチセンスのメカニズムが,1)転写段階での阻害,2)RNAの分解の促進,3)RNAの核膜透過の阻害,4)翻訳段階での阻害,と考えられているのに対し,デコイ型核酸医薬は,そのメカニズムは転写調節因子の結合部位への結合阻害によるプロモーター活性の低下であり,シンプルである.本論文では,デコイのメカニズムとデコイを利用した薬物療法の現状について解説する.

キーワード: デコイ, 再狭窄, E2F, NFkB, 遺伝子治療

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