日薬理誌 115 (3), 131-141 (2000)


プロスタノイドの生理機能: 受容体サブタイプ欠損マウスによる解析

杉本 幸彦

京都大学大学院薬学研究科生体情報制御学分野
〒606-8501 京都市左京区吉田下阿達町46-29

要約: プロスタノイドは,プロスタグランジン(PG)とトロンボキサンの総称であり,特異受容体を介して多くの生理機能や病態発現に関与すると考えられているが,個々の機能に関与する受容体の種類やその重要性については不明な点が多かった.この一連の研究では,8種類存在するプロスタノイド受容体の個々についてその遺伝子欠損マウスを作成しその表現型を解析した結果,PGF2alphaとPGE2が循環適応や生殖過程などの生理機能に重要な役割を果たすことが判明した.PGF2alpha受容体(FP)欠損マウスは妊娠可能であるが,出産が見られず,胎児は子宮内で死亡する.これらマウスでは,妊娠後期に黄体ホルモン産生の異常亢進を認め,卵巣切除により分娩の回復が見られたことから,PGF2alphaは,妊娠後期に黄体退縮を引き起こすことで分娩誘導の引き金となることが判明した.また,EP2欠損マウスは妊娠・分娩が可能だが,野生型に比べて出産数の減少が見られ,排卵数と受精率に顕著な減少を認めた.EP2の卵巣内発現と卵丘細胞の機能を解析した結果,排卵と受精の障害は,ともに卵丘細胞の機能障害に起因しているものと考えられた.一方,EP4欠損マウスは,その発生段階に異常を認めないが,動脈管の開存が認められ心不全により出生後72時間以内に死亡することが判明した.この一連の研究により,PGE2は,EP4を介して出生に伴う循環系の再構築に,またEP2を介して排卵と受精の遂行に,PGF2alphaはFPによる黄体退縮を介して分娩誘導に,それぞれ必須の役割を果たすことが明らかとなった.これらの結果は,プロスタノイドの病態作用を標的とした薬物を開発していく上で重要な基礎知見となるものである.

キーワード: プロスタノイド受容体, 黄体退縮, 動脈管, 排卵, 受精

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