日薬理誌 115 (3), 143-150 (2000)


血小板膜糖タンパク受容体(インテグリン機構)の薬理学的意義:
血管狭窄の制御および生体内新規抗血小板作用物質の同定

松野 浩之

岐阜大学医学部薬理学教室
〒500-8705 岐阜市司町40

要約: β3インテグリンは血小板膜上ではalphaII/β3として,血管平滑筋においてはalphav/β3として存在していることが知られている.RGD(Arg‐Gly‐Asp)構造を有するペプチドは血管狭窄モデルにおける内膜傷害後に誘発される血栓のみならず慢性期に見られる血管肥厚においても有意な抑制作用を示した.さらに培養平滑筋細胞を用いた実験で平滑筋の遊走はβ3インテグリンの拮抗作用によって抑制されることが確認された.一方,血小板の粘着は内膜傷害による初期血栓形成時だけでなく再開通時にも修復が完了していない内膜面やshear stressを起こすような隆起部に見られる.粘着に関与するインテグリン機構にGPIb/V/IXがあり,近年この機能の抑制による抗血栓効果がGPIIb/IIIa拮抗薬に次ぐ新しい抗血小板薬として注目されている.Aurinotricarboxylic acid(ATA)の高分画成分(平均分子量7500)はGPIb/V/IXに対する選択的拮抗性が高く,血管傷害後におきる血小板粘着による血栓形成と慢性期に見られる血管肥厚を有意に抑制した.しかし,ATAは平滑筋に対して直接増殖を抑制する作用を有することが培養細胞を用いた実験で確認され,血管肥厚の抑制には血小板と平滑筋の両方の活性化(増殖・遊走)を制御する必要性があることが確認された.次いで,低分子量heat shock proteins 20(HSP20)の生理活性機能について検討した.HSP20は血管平滑筋に存在する分子シャペロンの一つで,今回世界で始めてHSP20の血小板に対する生理学的な凝集抑制作用を確認した.この作用はトロンビンとボトロセチン刺激による血小板凝集を用量依存的に抑制するもので,近年GPIb/V/IXとトロンビンの相互作用が注目されていることからも新しい抗血小板作用を有する生体内物質として注目されるものと考えられれた.

キーワード: 血小板, インテグリン, 血管狭窄, HSP

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