日薬理誌 115 (6), 323-328 (2000)


塩酸ドルゾラミド(トルソプト点眼液)点眼用炭酸脱水酵素阻害薬の薬理作用と臨床効果

小林 正彦 (1)、内藤 恭三 (2)

(1)萬有製薬(株)つくば研究所
〒300-2611 茨城県つくば市大久保3
現所属:萬有製薬(株)臨床医薬研究所 臨床医薬情報部
〒153-8680 東京都目黒区下目黒2-9-3
(2)萬有製薬(株)学術部
〒103-8416 東京都中央区日本橋本町2-2-3

要約: 塩酸ドルゾラミドは点眼薬として初めて開発された,炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)である.経口のCAIに眼圧下降作用が報告されて以来,CAIは眼圧調節因子である眼房水産生抑制作用から注目され,緑内障治療薬として用いられてきた.全身性副作用の発現が避けられない内服薬の欠点を避ける為に局所投与が可能な点眼薬としての研究が続けられ,塩酸ドルゾラミドが開発された.ヒトの炭酸脱水酵素(CA)には7種類のアイソザイムが存在するが,眼圧調節を担う最も重要なCAは眼局所毛様体に分布するII型とされている.ドルゾラミドはこのII型CAに対する阻害活性が0.18 nMと経口CAIに比べ強く,しかもII型CAを特異的に阻害した.特異性と共に眼組織内移行性が点眼薬化に重要な因子であるが,ウサギへの点眼投与1時間後の虹彩・毛様体におけるCA活性は0.02%,0.1%ドルゾラミドでそれぞれ87%,100%阻害されたのに対し,0.1%のアセタゾラミドとメタゾラミドの阻害活性はそれぞれ26%,12%に止まり,ドルゾラミドの優れた眼組織移行性と強いCA阻害活性が証明された.国内の原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者を対象とした臨床試験では,至適用量は有効性と安全性の面から0.5%又は1%の1日3回点眼とされた.経口CAIからの切り替え試験からドルゾラミド点眼液の眼圧下降効果は経口CAIとほぼ同程度であり,経口CAIでみられた全身性副作用の軽減が確認された.また,0.5%ドルゾラミドは緑内障治療の第1選択薬であるマレイン酸チモロ−ル(0.25%の1日2回点眼)や,β遮断薬併用時のピロカルピン又はジピベフリンと同程度の眼圧下降効果を示した.更に,1年間の長期試験でも安定した眼圧下降効果が持続し,続発緑内障や原発閉塞隅角緑内障患者を対象とした試験でもその効果が確認された.海外では,正常眼圧緑内障患者の眼圧を下降し,眼循環を改善させて,視野感度を改善する事も報告されている.ドルゾラミド点眼液は従来の緑内障治療点眼薬と作用機序が異なるのでそれらとの併用が可能で,眼底部における血液循環も改善することから近年問題となっている正常眼圧緑内障患者への投与も可能である.

キーワード: 塩酸ドルゾラミド, 炭酸脱水酵素阻害薬, アイソザイム, 緑内障, 眼圧

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