日薬理誌 116 (2), 71-78 (2000)


糖尿病モデル動物の中枢体内時計機構

島添 隆雄

九州大学大学院薬学研究院医療薬科学専攻 薬効解析学分野
〒812-8582 福岡市東区馬出3-1-1

要約: 糖尿病と中枢体内時計機構,なかでも同調機能との関連性について,非インシュリン依存型糖尿病モデルOtsuka Long Evans Tokushima Fatty(OLETF)ラットおよびインシュリン依存型糖尿病モデルstreptozotocin(STZ)投与ラットを用いて検討した.明暗条件を8時間ジャンプさせたところ,行動リズムの再同調にOLETFラットの方が対照ラットに比べ有意に長い日数を要した.STZ投与ラットでも同様の傾向が認められた.また,高血糖発症前のOLETFラットでは,100 luxまでの比較的弱い照度での視交叉上核内Fos発現が正常ラットに比べ有意に少なかった.高血糖発症後では,300 luxという強い照度でも発現の減少が認められた.STZ投与ラットでは,投与数日で発現の減少傾向が認められ,2‐3カ月後では有意に減少した.さらに,高血糖発症前のOLETFラットでは,低濃度のグルタミン酸負荷による視交叉上核自発放電リズムの位相変化も有意に小さかった.高血糖発症後になると高濃度負荷でも位相変化が有意に小さくなった.しかし,STZ投与ラットでは投与2‐3カ月後でも正常ラットと同程度の位相変化が認められた.以上の結果,OLETFラットでは高血糖発症前より同調機能が低下していることが明らかになった.これは,体内時計の同調機能低下が糖尿病の発症要因の一つになる可能性を示唆するものである.また,高血糖の進行に伴って同調機能低下が一層増悪されることが推察される.一方,STZ投与ラットの同調機能については更なる検討が必要である.

キーワード: サーカディアンリズム, 同調機能, Per, コレシストキニン-A受容体

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