日薬理誌 116 (2), 79-84 (2000)


うつ病治療におけるSSRIの意義

仙波 純一

放送大学教養学部
〒261-8586 千葉市美浜区若葉2-11

要約: SSRIの登場は,うつ病の治療だけでなく,診断や病因の探求にも大きな影響を与えている.第1にはうつ病の薬物療法に対する影響である.SSRIは副作用が少なく使いやすい抗うつ薬であるため,中核的なうつ病だけでなく,抗うつ薬の副作用のために服薬の維持が難しかった軽症のうつ病に対しても,有用であることがわかった.こうして,以前は精神療法や対症療法的な抗不安薬の適応とされた軽症のうつ病に対して,その診断や薬物療法についての知見が増加した.また,副作用による脱落の少ないSSRIは,うつ病の再燃や再発の防止にも適していることがわかり,うつ病の自然史研究の所見と合わせて,うつ病の長期経過への関心がいっそう高まった.第2にうつ病の病因研究に対する影響である.うつ病の病因として提唱されていたモノアミン仮説では,セロトニンとノルエピネフリンの機能の重要性は同じように扱われていた.しかし,SSRIがうつ病に有効となると,ノルエピネフリンのうつ病での役割は何なのだろうという疑問が生じてきている.それぞれのモノアミンに選択的に働く抗うつ薬が開発されることにより,旧来いわれていたセロトニン欠乏性うつ病やノルエピネフリン欠乏性うつ病などという概念に,新しい視点がもたらされる可能性がある.第3の影響としては,SSRIがうつ病のみならず,強迫性障害やパニック障害などの不安障害にも有効なことから,不安とセロトニンの関連にも新しい視点がもたらされたことである.

キーワード: 選択的セロトニン再取り込み阻害薬, 抗うつ薬, うつ病, 不安障害

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