日薬理誌 116 (2), 93-100 (2000)


新生仔期にカプサイシン投与したマウスの侵害熱刺激応答に対する抗NGFとNGFの影響

中川 弘 (1),樋浦明夫 (2),久保吉廣 (1)

(1) 徳島大学歯学部附属病院特殊歯科総合治療部
(2) 徳島大学歯学部第二口腔解剖学講座
(1)(2)〒770-8504 徳島市蔵本町3-18-15

要約: 予想に反して,生後2日目にカプサイシン(CAP)処理を行うと,マウスの後根のC‐fiberは顕著に減少するのにかかわらず,侵害熱刺激に対する反応は正常であった.その矛盾の原因を検討するため,本研究ではCAP処理後の侵害熱刺激に対する抗NGFおよびNGFの影響を調べた.生後2日目のマウス(12匹)にCAP(50 mg/kg)を背側皮下に単回投与した.CAP処理後5日目から30日間抗NGF(3 μl/g/日)を背側皮下に連続投与した.同様に生後10日目のマウス(6匹)にもCAP(50 mg/kg)を投与し,CAP処理後5日目から30日間NGF(3 μl/g/日)を連続投与した.CAP処理後10日目からHargreaves法による熱刺激を,10日間あるいは20日間(投与後60日以降)毎に行い,後足を引き上げる時間(侵害刺激に反応するまでの時間)を測定した.CAP+抗NGF群とCAP群を比較すると,明らかに前者の方に反応時間の遅延が認められた.このことは,生後2日目にCAP処理するとC‐fiberが減少するとともに,残存ニューロンから発芽が生じ,その発芽を抗NGFが抑制していることを暗示している.一方,CAP+NGF群とCAP群を比較すると,有意差はないが前者の方に反応時間の短縮が認められた.この理由は,生後10日目にCAP処理後の後角内での発芽がNGFにより増強されたためと考えられる.このように生後早期にCAP投与によるC‐fiberの大量消失にかかわらず,侵害熱刺激に対して正常に反応する原因の一つとして,残存ニューロンからの発芽が何らかの役割を果たしている可能性が示唆された.しかし,抗NGFやNGFの単独の作用がデータに影響を及ぼしていることも考えられるため,発芽が原因であるということを証明するには,脊髄後角内での発芽を免疫組織化学的に検証する必要がある.


キーワード: カプサイシン, 発芽, 侵害熱刺激, 抗NGF, NGF

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