日薬理誌 116 (5), 269-274 (2000)


血小板凝集とレムナント様リポタンパク

梅村 和夫、Abby R. Saniabadi

1)浜松医科大学薬理学教室
〒431-3192 浜松市半田町3600
2)日本抗体研究所
〒370-0021 高崎市西横手町351-1

要約: 高脂血症は虚血性冠動脈疾患の危険因子である.近年,脂質成分中のレムナントリポタンパクの重要性がいわれている.そこで今回はレムナント様リポタンパクが血小板凝集にどのような影響を与えるか検討した.レムナント様リポタンパクは血小板豊富な血漿中では血小板を凝集させなかったが,他の血球成分が含まれる全血中では凝集させた.走査型電子顕微鏡で,赤血球膜上で血小板の凝集がみられ,血小板・赤血球の相互関与の重要性が確認された.また,この凝集にはADPが関与していた.レムナント様リポタンパクによる血小板凝集の機構は直接血小板を刺激しておこるのでなく,血小板と赤血球との相互関与を介することが予測され,新しい凝集経路を見出せたことは興味深い.さらに,レムナント様リポタンパクの表面にはapoEがあり,レムナント様リポタンパクの細胞内取り込みのリガンドとしての役割を持っている.apoEにはE2,E3,E4の3つのアイソザイムがある.その中でapoE4は動脈硬化やアルツハイマー病に関与しているという報告がある.健常者はapoE3が多く含まれている.我々は,apoE4/3が豊富なレムナント様リポタンパクの血中濃度の高い患者から血液を採取し,apoE4/3が豊富なレムナント様リポタンパクの血小板凝集における影響を検討した.ApoE4/3が豊富なレムナント様リポタンパクはapoE3/3が豊富なものより血小板を強く凝集させた.apoE3/3が豊富なレムナント様リポタンパクによる血小板凝集はベルシェイプで用量を高くすると凝集が弱くなってしまうが,apoE4/3が豊富なものでは用量に依存して凝集が強くなり,さらに凝集の程度も強い.このことからapoEのアイソザイムの違いはレムナント様リポタンパクによる血小板凝集に大きく影響していることが示唆された.

キーワード: レムナント様リポタンパク, 血小板凝集, 赤血球と血小板の相互関与, ADP, apoEアイソザイム

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