日薬理誌 116 (5), 275-282 (2000)


抗凝固薬

川崎 富久、平山 復志

山之内製薬(株) 創薬研究本部
〒305-8585 つくば市御幸が丘21番地

要約: 新しい抗血栓薬の開発は,臨床ニーズの高まりと血栓症発症機序の解明を基盤として,遺伝子工学技術の発展とともに展開してきた.抗凝固薬としては,ワーファリンとヘパリンが種々の血栓塞栓性疾患に従来から繁用されており,その有用性は確立している.しかし前者は治療域が狭く用量依存性に個人差が大きく,薬物相互作用や食事の影響を受けやすいなどの問題点が指摘されている.また後者は,治療域が狭く出血の危険性が高く,効果発現が血中アンチトロンビンIII濃度に依存することや抗体産生による血小板減少症惹起などの問題点が指摘されている.したがってこれらの薬薬を使用する場合には,重篤な出血性の副作用を回避するため,凝血学的検査により抗凝固能をモニターすることが必要とされている.近年,これらの問題点を克服すべく新しい抗凝固薬の開発が行われている.これらには,トロンビン,Xa因子,IXa因子,VIIa因子/組織因子の阻害薬,あるいはプロテインC抗凝固経路の亢進薬が挙げられ,静注薬のトロンビン阻害薬,トロンボモジュリン,プロテインCおよび活性化プロテインCはすでに上市あるいは臨床試験段階にある.また,経口薬のトロンビン阻害薬やXa阻害薬は現在臨床試験段階にあり,近い将来,ワーファリンに代わる血栓塞栓性疾患の治療薬として登場してくるであろう.この目標に向って,高い経口吸収性を示す化合物の探索競争が熾烈をきわめている.近い将来これらの薬薬の登場により,各種血栓症に対する抗凝固療法も大きく様変わりしていくことであろう.

キーワード: Xa阻害薬, トロンビン阻害薬, VIIa/TF阻害薬, 経口抗凝固薬

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