日薬理誌 116 (5), 313-320 (2000)


抗悪性腫瘍薬、塩酸ドキソルビシンで誘発されるイヌの遅延性嘔吐

芳賀慶一郎 (1)、稲葉 賢一 (1)、正路 英典 (1)、橋本 敏夫 (2)

ウエルファイド(株),研究本部,開発研究所 (1),研究推進部 (2)
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要約: イヌを用い,非プラチナ性抗悪性腫瘍薬,塩酸ドキソルビシン(ドキソルビシン)によって投与後24時間以降に誘発される遅延性嘔吐の発現を検討し,併せて摂餌量,摂水,排便行動などに及ぼす影響を検討した.2 mg/kgのドキソルビシンを静脈内投与すると,投与24時間以内に発現する急性嘔吐は少なかったが,投与24時間以降に発現する遅延性の嘔吐が全例に誘発された.この遅延性嘔吐の発現は投与3〜4日目にピークに達し,5日目には減少した.遅延性嘔吐の発現にやや遅れて摂餌量および飲水回数の減少,排便回数の増加が観察された.5‐HT3受容体拮抗薬である塩酸アザセトロン(アザセトロン)の0.3および1 mg/kg/dayを抗悪性腫瘍薬投与の24時間後から4日間反復経口投与すると,ドキソルビシン誘発の遅延性嘔吐をそれぞれ約30および50%減少させた.ドキソルビシンで誘発される遅延性嘔吐の発現機序には,一部5‐HT3受容体が関与していると推察される.摂餌量および飲水回数の減少に対しては,アザセトロンは明らかな影響を及ぼさなかったが,排便回数の増加に対しては改善作用を示した.イヌにドキソルビシンを投与する本法は,非プラチナ性抗悪性腫瘍薬で誘発される遅延性嘔吐のモデルとして,機序の解明および治療薬の開発に有用と考えられる.


キーワード:
塩酸ドキソルビシン, 遅延性嘔吐, 5‐HT3受容体, 制吐作用, イヌ

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