日薬理誌 116 (6), 343-350 (2000)


ATPと痛み

津田  誠、小泉 修一、井上 和秀

国立医薬品食品衛生研究所
〒159-8501 東京都世田谷区上用賀1-18-1
e-mail: inoue@nihs.go.jp

要約: ATP受容体が痛みの発生と伝達にどのように関与しているかについてその可能性も含めてまとめた.イオンチャネル型ATP受容体のなかでも,P2Xはカプサイシン感受性の小型脊髄後根神経節(DRG)神経細胞に局在し,急速な不活性化を伴う内向電流の発現に寄与し,末梢側ではブラジキニンに匹敵するような痛みを引き起こす.さらに,nocifensive behaviorおよびthermal hyperalgesia発現に関与している事が推測される.脊髄後角ではP2XはDRG中枢端からのグルタミン酸放出を促進することにより痛み伝達を増強するようである.一方,P2XとP2Xのヘテロマー受容体は,カプサイシン非感受性のやや中型DRG神経細胞に局在し,比較的緩徐な不活性化を伴う内向電流の発現に寄与する.行動薬理学的にはこのヘテロマー受容体はmechanical allodyniaの発現に関与していることが推測されている.なおGタンパク共役型ATP受容体は,痛みとの直接の関与については未だ証明されていないが,それを示唆する状況証拠はかなり蓄積されており,特に病態時の関わりについて今後の研究が待たれる.


キーワード: ATP受容体, 痛み, DRG, アロジニア, 疼痛反応

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