日薬理誌 116 (6), 379-384 (2000)


脳梗塞治療薬の開発状況

鈴木 康裕、梅村 和夫

浜松医科大学薬理学教室
〒431-3192 浜松市半田町3600
e-mail: yapplel@hama-med.ac.jp

要約: 1990年代に入りようやく遺伝子組換え組織プラスミノーゲンアクチベータ(rt‐PA)を用いた血栓溶解療法の脳梗塞治療における有効性が示され,脳梗塞治療の糸口が見えてきた.しかしながら,現在,数種の治療薬において臨床適応が認められているが,満足する効果は得られていない.従って,脳梗塞に対するさらなる治療薬の開発は急務である.候補として抗血小板薬,抗凝固薬,血栓溶解薬,神経細胞保護薬などが開発されている.抗血小板療法では,アスピリンは2つの大規模な国際共同研究が行われたが,有効性は認められたもののわずかなものであった.現在,抗血小板薬である糖タンパク(GP)IIb/IIIa拮抗薬は第II相試験において良好な結果が得られた.抗凝固薬では,ヘパリンとアルガトロバンが急性期脳血栓症治療薬として使用されているが,ヘパリン療法が果たして急性期脳梗塞に有効であるかどうか結論は出ていない.血栓溶解療法は,1992年の我が国や欧米での臨床試験においてrt‐PA群は再開通率が高く脳梗塞治療における有効性を示し,その後アメリカでの臨床試験において発症後3時間以内のあらゆるタイプの脳梗塞を対象にしてその臨床的有効性を立証したが,発症後3時間以上での有効性は認められなかった.脳保護薬としては,現在,臨床適応が認められた薬剤はない.NMDA受容体およびAMPA受容体拮抗薬は,数多くの臨床試験が行われているが未だ結論が出ていない.抗酸化剤であるMCI‐186とエブセレンは第III相試験が終了しており,日本では良好な臨床結果が得られている.その他,bFGFや抗ICAM‐1抗体は第III相試験まで進められたが治療群の成績が悪かったため中止された.現在,開発中の治療薬が臨床試験で有効性と安全性が証明され一刻も早く一人でも多くの脳梗塞患者が改善することを期待する.

キーワード: 脳梗塞, 治療薬

日本薬理学雑誌のページへ戻る