日薬理誌 117 (2), 111-122 (2001)


パーキンソン病治療薬

野元 正弘,岩田 真一,加世田 俊

鹿児島大学医学部薬理学教室
〒890‐8520 鹿児島市桜ヶ丘8丁目35‐1
e‐mail: nomoto@m.kufm.kagoshima‐u.ac.jp

要約: パーキンソン病の主要な運動症状は振戦,無動,筋固縮,姿勢保持障害である.このうち最も重要な症状は無動であり,自発運動の減少,動作緩慢,巧遅運動の障害,すくみが含まれる.主要な病変は黒質線条体系ドパミン神経の変性であり,その原因としては酸化的ストレスや神経毒の関与が研究されている.この神経変性に対して抗酸化薬,神経の再生促進薬あるいは変性抑制薬は今後開発されるべき分野である.また,一部のパーキンソン病では遺伝子の異常が明らかにされており,遺伝子治療も将来は可能であろう.現在臨床応用されている薬物は症状の改善薬であり,線条体で低下しているドパミンの補充,ドパミンやL‐DOPA(レボドパ)の代謝酵素の阻害薬,ドパミン受容体作用薬,抗コリン薬,NMDA受容体拮抗薬である.さらに,アデノシン受容体拮抗薬,ドパミンの放出促進薬・取り込み阻害薬,セロトニン受容体作用薬,神経栄養因子,ニコチン受容体作用薬などが研究されている.また,現在の治療薬の問題点は中等度以上の進行例でみられる薬効の持続の短縮(wearing‐off)とジスキネジア,幻覚興奮妄想などの治療薬により起こる症状である.薬効の短縮に対しては持続の長い治療薬やMAO阻害薬がある程度有効である.精神症状に対してはドパミン受容体拮抗薬も有効であるが,パーキンソン病治療薬を減量をせざるを得ないことが多く,対処の困難な場合が多い.また,進行例ではドパミンを補充しても十分な効果は得られないため,ドパミン神経以外の伝達物質の作用もさらに検討されるべきである.ドパミン神経以外の作用薬の効果は動物で評価しにくいことが開発上の一つの問題点でもある.この総説では現在応用されている治療薬と臨床研究されている薬および実験的に抗パーキンソン病作用を認め,研究されている薬物について概説する.

キーワード: パーキンソン病,線条体,ドパミン,治療

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