日薬理誌 117 (2), 138-148 (2001)


消化管傷害性の低いNSAIDsの開発
−COX‐2選択的阻害薬とNO遊離型NSAIDs−

竹内 孝治,田中 晶子

京都薬科大学薬物治療学教室
〒607‐8414 京都市山科区御陵中内町5
e‐mail: takeuchi@mb.kyoto‐phu.ac.jp

要約: 非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)はサイクロオキシゲナーゼ(COX)阻害に基づくプロスタグランジン(PG)の産生低下によって解熱・鎮痛・抗炎症作用などを発揮するが,副作用として消化管における種々の機能異常と粘膜傷害を誘起する.NSAIDsの消化管における副作用軽減を目的とした種々のアプローチにより,最近,COX‐2選択的阻害薬と一酸化窒素(NO)遊離型NSAIDsが開発されてきた.前者は炎症反応に密接に関連しているCOX‐2のみを選択的に阻害し,消化管粘膜の恒常性維持に重要とされているCOX‐1には影響を与えないため,副作用としての消化管傷害性を示さない.一方,後者のNO遊離型NSAIDsは,PGと共に胃粘膜防御に関与することが知られているNOの遊離基を従来のNSAIDsに付加した薬剤であり,COX阻害により齎される有害な作用をNOによって代償させることを目的としている.何れの試みもNSAIDsとしての抗炎症作用を保持した条件下で,消化管傷害性を極端に低下させることに成功している.しかしCOX‐2も,ヘリコバクターピロリ感染あるいは関節炎などの病態時においては,胃粘膜恒常性の維持に関与していることが示されており,COX‐2阻害の齎す消化管への影響が再検証されつつある.またNOに関しても,誘導型NO合成酵素由来のNOが炎症性腸疾患においては増悪因子として作用することが指摘されており,NO遊離型NSAIDsによる炎症性腸疾患への影響が懸念されている.本稿では,消化管粘膜の恒常性維持におけるCOXアイソザイム,PGおよびNOの役割も含め,消化管傷害性の低い新たなNSAIDsであるCOX‐2選択的阻害薬とNO遊離型NSAIDsについて概説し,これら薬剤の有用性に関し既存のNSAIDsと比較考察した.

キーワード: 非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs),消化管傷害性,COX‐2選択的阻害薬,一酸化窒素(NO)遊離型NSAIDs

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