日薬理誌 117 (3), 177-186 (2001)


多選択性有機アニオントランスポーターファミリー(OAT family)の同定と薬物輸送における役割の解析

関根 孝司

杏林大学医学部薬理学教室
〒181‐8611 東京都三鷹市新川6‐20‐2
e‐mail: sekinet‐tky@umin.ac.jp

要約: 薬物トランスポーターは薬物の吸収・分布・排泄に関与し,薬物代謝酵素と並び薬物の体内動態を決定する重要な因子である.アニオン性薬物および薬物代謝物の輸送を担う有機アニオントランスポーターは代表的な薬物トランスポーターであり,腎臓および肝臓に組織特異的な有機アニオン輸送系が存在するとされてきた.我々は腎臓からのアニオン性薬物の排泄に重要な役割を担う多選択性有機アニオントランスポーターOAT1(organic anion transporter 1)を発現クローニング法を用いて単離し,さらに3つのアイソフォームを同定した.OAT1は551アミノ酸残基よりなる12回膜貫通型のトランスポーターで,腎臓および脳に発現している.OAT1はPAH(パラアミノ馬尿酸)トランスポーターとして知られていた有機アニオントランスポーターの分子的実体であり,有機アニオンの近位尿細管細胞への取り込みをNa非依存性に媒介する.OAT1の基質には,cAMP,cGMP,プロスタグランジンE,尿酸,ジカルボン酸などの内因性有機アニオン,βラクタム系抗生物質,利尿薬,NSAIDs,メトトレキセートなどのアニオン性薬物,各種抱合体,環境異物など多様な有機アニオンが含まれる.OAT2は肝臓,腎臓,OAT3は腎臓,肝臓,脳,眼,OAT4は腎臓および胎盤に存在し,それぞれ特徴的な基質親和性を示す.OATファミリーは有機カチオントランスポーターファミリー(OCTファミリー)と一次構造上弱い相同性を有することが判明し,有機イオントランスポーターファミリーと呼ぶべき新しいトランスポーターファミリーの存在が明らかになった.OATファミリーは,既に同定されているoatpファミリーおよびMrpファミリーと共に,薬物・薬物代謝物の体内動態,毒性発現,薬物相互作用などに深く関与する多選択性有機アニオントランスポーターファミリーである.

キーワード: 薬物トランスポーター,パラアミノ馬尿酸,多選択性有機アニオントランスポーター,アニオン性薬物,薬物動態

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