血管周囲神経からの遊離伝達物質ニューロペプチドYの役割について
−イヌ摘出血管からの考察
千葉 茂俊
信州大学医学部薬理学教室
〒390‐8621 長野県松本市旭3‐1‐1
要約: 末梢血管の調整に重要な役割を担っているのは交感神経系であり,その化学伝達物質はノルアドレナリン(NA),ATPおよびニューロペプチドY(NPY)の3者が代表的なものである.摘出イヌ摘出脾動脈の灌流標本(カニューレ挿入法)を用いて,血管周囲神経の電気刺激(PNS)を行うと二峰性の血管収縮反応が引き起こされ,第1峰は主としてプリン作動性,第2峰は主にアドレナリン作動性反応であることが明らかにされている.今回の総説ではこれらPNSによる反応に伝達物質NPYがどのように関与しているのかを薬理学的に分析し,考察を加えた.要約すると,1.PNSによる二峰性の反応はプリン作動性P2X受容体ならびにアドレナリン作動性α1受容体の抑制により各々抑制される性質のものである.2.NPYの直接投与では収縮反応は観察されない例が多く,ほとんどの例では弱い僅かな収縮を示すにすぎない.3.PNSの二峰性反応はNPYの前処置によりいずれも用量依存的に抑制される.4.選択的なNPY
Y1受容体アゴニストのLP‐NPYの前処置によりPNSの第2峰は著明に増強される.5.PNSの第2峰はchloroethylclonidine(CEC:α1B受容体アンタゴニスト)により抑制されたが,WB4101(α1A受容体アンタゴニスト)前処置では抑制されずむしろ増強される.6.BIBP3226(NPY
Y1受容体アンタゴニスト)の前処置によりPNSの第2峰は明らかに抑制されたが,第1峰は影響を受けなかった.以上の結果およびこれまでの報告から,NPYはそれ自身はこの血管反応に直接関与しないが,prejunctionalならびにpostjunctional機構の両方に作用して血管反応調整を行っているものと考えられる.すなわち,NPYはprejunctionalなNPY
Y2受容体を介してプリン作動性およびアドレナリン作動性化学伝達物質ATPおよびNAの遊離抑制に働く機構と,postsynapticなNPY
Y1受容体の活性を介してjunctionalなα1B受容体の活性を増強する機構の存在が示された.
キーワード: イヌ摘出脾動脈,カニューレ挿入法,血管周囲神経刺激,二峰性収縮反応,ニューロペプチド作動性機構
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