日薬理誌 117 (4), 255-261 (2001)


炎症・アレルギーとプロスタノイド
(1)炎症

上野 晃憲1),大石 幸子2)

1)北里大学薬学部薬理学教室
2)北里研究所 
1)2)〒108‐8642 東京都港区白金5‐9‐1
e‐mail: oh‐ishi@kitasato.or.jp

要約: プロスタグランジン(PGs)は他のメディーエーターと共存する事によって炎症反応を修飾し調節しているが,その生体内での相互作用や修飾作用の実態は不明な点が多かった.PGsの受容体のノックアウトマウスが作成され,その表現型やin vivoでの実験の結果から多くの情報が得られてきている.ここでは足浮腫モデル,炎症疼痛のライジングモデル,白血球遊走に関係するサイトカインの産生制御におけるPGs受容体の役割について解析した結果を示す.まずマウス足浮腫について,IP受容体の欠損マウスと野生型を比較し調べたところ,カラゲニンによって引き起こした足浮腫の初期にはPGIが主なPGとして働き,ブラジキニンの作用を増強している可能性が示された.酢酸の腹腔内投与により引き起こされる疼痛モデルのライジング反応では主なPGとしてPGIが働いていることが,IP受容体欠損マウスを用いた結果と腹腔内PGsの測定結果から明らかとなった.一方LPS前処置後の増強されたライジング反応では,COX‐2が誘導されて,PGIばかりでなくその他のPGsの産生も上昇して作用している可能性が示された.白血球遊走や,細胞機能の刺激に関与する炎症性サイトカインは,滲出液中に時間差をもって出現し炎症反応の進展の制御に働いている可能性が指摘されているが,炎症部位に共存するPGsによって産生制御されていることがわかってきた.IPおよびEP受容体の選択的アゴニストやそれら受容体の欠損マウスを用いた検討から,IP,EP2,EP4受容体は内因性のPGI,PGEの刺激に応じて細胞内cAMPの上昇を介した情報伝達系の制御によって,TNFαおよびIL‐1の産生には抑制的に,またIL‐6やIL‐10の産生には増強的に作用する結果,抗炎症的に作用する面があることが示された.

キーワード: PGI,PGE,足浮腫,ライジング反応,サイトカイン

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