日薬理誌 117 (4), 262-266 (2001)


炎症・アレルギーとプロスタノイド
(2)アレルギー性炎症とプロスタノイド

田中 宏幸,永井 博弌

岐阜薬科大学薬理学教室
〒502‐8585 岐阜市三田洞東5‐6‐1
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要約: アレルギー性炎症は,気管支喘息,アレルギー性鼻炎ならびにアトピー性皮膚炎などの疾患の発症に関わる好酸球性炎症である.従来の概念でとらえた関節リュウマチなどの好中球性炎症とは,発症原因,進展過程および治療など種々の面において異なる.すなわち,発症には,抗原特異的T細胞を中心とする免疫細胞およびその進展には免疫グロブリンを固着することができる肥満細胞および好酸球などが関与する.また,周知のごとくプロスタノイドは,これら炎症性細胞から産生されるアラキドン酸代謝産物であり,炎症反応に重要な因子である.しかし,プロスタノイドの産生を抑制する非ステロイド性抗炎症薬は,好中球性炎症には有効であるが,アレルギー性炎症は抑制せず,かえって増悪することがある.従って,アレルギー性炎症におけるプロスタノイドの役割は検討されなければならない大きな課題であった.そこで,アレルギー反応において主として肥満細胞から産生されるプロスタグランジンD(PGD)のアレルギー性気道炎症における意義をその受容体であるDP遺伝子欠損マウスを用いて検討した.その結果,DP欠損マウスでは,野生型マウスに比し,好酸球を主体とするアレルギー性気道炎症,Th2タイプのサイトカイン産生ならびに気道過敏性のいずれの反応も減弱する事が明らかとなった.すなわち,PGDはアレルギー性気道炎症の発症に意義を有するものと思われる.また一方で,これらの反応は非ステロイド性抗炎症薬によりむしろ増悪がみられることから,他のプロスタノイドの中にはアレルギー性炎症を制御するものが存在する可能性も推察される.これらのことより,今後,個々のプロスタノイドの産生に関連する遺伝子または受容体欠損マウスあるいは遺伝子導入マウスを用いた研究および阻害薬を用いた研究を通じて,アレルギー性炎症におけるプロスタノイドの役割がさらに明らかになるものと思われる.

キーワード: 気管支喘息,PGD,肥満細胞,気道過敏性

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