我が国における骨粗鬆症治療薬の開発状況
荒木 博陽,二神幸次郎,五味田 裕
岡山大学医学部附属病院薬剤部
〒700‐8558 岡山市鹿田町2‐5‐1
e‐mail: haraki@hospital.okayama‐u.ac.jp
要約: 急激な高齢化に伴う諸種疾患が問題となるなか,骨粗鬆症患者の骨折による寝たきり状態は介護の問題を含め,社会的にも重要な課題といえる.しかしながら,これまで骨粗鬆症は病気というよりも老化現象ととらえられ,治療の対象としては考えられなかったために,我が国での治療薬開発は低調であった.しかし最近,薬剤の作用機序が明確であり,作用発現が速やかな骨吸収抑制薬の登場により臨床開発に力が注がれてきている.すでに,8種類の成分としては10種類以上の薬剤が医療用医薬品として市販されているが,さらに現在臨床試験中の薬剤も多く,競争が激しい分野となってきている.種類としては,エストロゲン製剤,蛋白同化ステロイド製剤,カルシトニン製剤,活性型ビタミンD3製剤,ビスホスホネート製剤が臨床試験中である.エストロゲン製剤の中で選択的なエストロゲン受容体調整薬(SERM)が生殖器の受容体に対して拮抗作用を有することから副作用の心配を除去できることが期待されている.また,エストロゲン,プロゲストーゲン様活性を有することからプロゲストーゲンの周期的投与を必要とせず,また弱いアンドロゲン作用を有する新規ステロイドが,閉経後女性の骨量減少予防,骨粗鬆症患者の骨量増加作用を有することで注目されている.ビスホスホネートは第1世代のエチドロネートに比較すると極めて強力な骨吸収抑制作用を有し,連続投与が可能な第2世代,およびそれに加えて高用量投与でも石灰化障害作用が認められない第3世代の製剤が現在臨床試験されている.今後,これらの副作用が軽減された効果の明らかな薬剤の登場により,医療現場では作用機序の異なる薬剤の併用が可能となるものと期待される.さらに,基礎的検討から骨粗鬆症の発現機序が明らかになるにつれて新しい考え方の薬剤の登場も期待されている.最後に骨粗鬆症治療薬の今後の展望についてもふれた.
キーワード: 骨粗鬆症,治験薬
日本薬理学雑誌のページへ戻る