日薬理誌 117 (6), 395-400 (2001)


パーキンソン病治療薬カベルゴリン(カバサールR)の薬理学的特性

市川  潔,小嶋 正三

キッセイ薬品工業(株)開発研究部薬理研究所
〒399‐8304 長野県南安曇郡穂高町柏原4365‐1
e‐mail: kiyoshi_ichikawa@pharm.kissei.co.jp


要約: パーキンソン病の治療にはドパミンの前駆物質であるL‐ドパ(L‐dopa)ならびにドパミン受容体刺激薬が用いられているが,薬効の減弱および副作用の発現等の問題が残されている.新規の麦角アルカロイド誘導体カベルゴリンのパーキンソン様症状に対する改善作用の特徴をペルゴリドおよびブロモクリプチンと比較検討した.カベルゴリンはドパミンD2受容体に対してペルゴリドと同等の高い親和性を示した.またドパミンD1受容体に対する結合性はペルゴリドより弱いものの刺激作用を示すことが推察された.カニクイザルの1‐methyl‐4‐phenyl‐1,2,3,6‐tetrahydropyridine(MPTP)誘発パーキンソン病モデルにおいて,カベルゴリンはパーキンソン様症状改善効果を示し,その効果はペルゴリドおよびブロモクリプチンより長時間持続した.また,この時ペルゴリドとブロモクリプチンは興奮行動およびジスキネジアを発現させたのに対し,カベルゴリンはパーキンソン様症状改善効果を示す用量においても,それらの異常行動は発現しなかった.カベルゴリンとL‐ドパの併用試験において,相加的なパーキンソン様症状改善効果が認められた.そして,併用することによってL‐ドパ単独投与で得られた改善効果と同等の効果を示したにもかかわらず,L‐ドパ単独投与時の異常行動発現は見られなかった.耐薬性について,カベルゴリンは長期連続投与してもパーキンソン様症状改善効果の減弱は認められなかった.以上のことから,カベルゴリンは持続的なパーキンソン様症状改善作用を持ち,副作用発現ならびに耐薬性も低いことが示唆された.またL‐ドパとの併用において,カベルゴリンはL‐ドパの投与量を減量できる可能性が示された.事実,臨床試験においても,カベルゴリンは1日1回の投与において,ブロモクリプチン(1日3回)と同等のパーキンソン病の主要症状の改善効果が認められた.L‐ドパとの併用においてもL‐ドパの投与量を低くおさえられwearing‐off現象及びon‐off現象の発現も低率にすることが認められた.これらのことから,カベルゴリンは有用なパーキンソン病治療薬となりうるものと考えられる.

キーワード: パーキンソン病,カベルゴリン,L‐ドパ,ドパミンD2受容体

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