日薬理誌 118 (2), 123-130 (2001)


新たな酢酸誘発潰瘍性大腸炎モデルの基礎的研究
−ラット漿膜内酢酸注入潰瘍性大腸炎モデル−

小島僚太郎1),浜本 昇一2),森脇 正彦2),岩館 克治3),大脇 達也4)

日清キョーリン製薬株式会社 創薬研究所1)
株式会社ラビトン研究所 非臨床試験部門2)
株式会社新薬開発研究所 中央研究所3)
日清キョーリン製薬株式会社 開発部4)
1)〒356‐8511 埼玉県入間郡大井町鶴ヶ岡5‐3‐1
2)〒677‐0032 兵庫県西脇市中畑町338
3)〒061‐1405 北海道恵庭市戸磯452‐1
4)〒101‐0054 東京都千代田区神田錦町3‐1


要約: 潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis, UC)を対象とした薬理研究の分野で繁用されている酢酸注腸によるラット大腸炎モデルの優れた特性に加え,さらに客観性,定量性を備えた新たなラット漿膜内酢酸注入潰瘍性大腸炎モデルを確立したので報告する.本モデルは,ラット大腸漿膜下への酢酸注入(20%,0.02 ml)により,限局した部位に円形ないしは楕円形状のUC様病変を作製するものである.作製した潰瘍の大きさはノギスを用いて直接的に測定することが可能で,結果は潰瘍面積(mm)として数値であらわされる.臨床的に重要な炎症ファクターの一つであるロイコトリエンB4について,本モデルの潰瘍部位における存在量を経時的に測定したところ,潰瘍面積の変化と良く相関していた.また,潰瘍部位には炎症性細胞の組織浸潤など典型的な炎症組織像が認められ,ヒトUCの病態との類似性が示された.UCの治療に広く用いられる5‐アミノサリチル酸あるいはリン酸プレドニゾロンナトリウムの注腸投与による作用を本モデルにて検討したところ,ほぼ臨床用量の範囲で有意な潰瘍面積の縮小効果が認められた.以上の結果,本モデルは従来の大腸管腔内への酢酸注入によるモデルと同様にヒトUCの病態を反映し,さらに従来のモデルよりも客観性,定量性に優れた新たな薬物の評価システムとして今後のUCに対する薬理研究に役立つものと考えた.


キーワード: 潰瘍性大腸炎,疾患モデル,ラット,酢酸,潰瘍面積

日本薬理学雑誌のページへ戻る