日薬理誌 118 (3), 170-176 (2001)


遺伝子塩基配列決定後の研究戦略

石川 紘一1),辻本 豪三2)

1)日本大学医学部薬理学教室
〒173‐8610 東京都板橋区大谷口上町30
e‐mail: ishikawa@med.nihon‐u.ac.jp
2)国立小児病院小児医療研究センター分子細胞薬理研究部
〒154‐8509 東京都世田谷区太子堂3‐35‐31
e‐mail: gtsujimoto@nch.go.jp


要約: ヒトゲノム塩基配列の読み取りがほぼ完了し,この情報をもとにした新たな研究戦略が現実のものとして模索され始めている.その最終的な目標は,ゲノムワイドのスケールで遺伝子の機能解析を行うことにより,疾病の診断および治療を安全かつ効果的に行うことにある.このため,遺伝子の発現および変異についての研究が実施に移されている.しかし,ゲノム・スケールでの研究については,従来の研究手法とは異なる点が多く,具体的な戦略についての理解は十分になされていない.そこで,第74回日本薬理学会年会のシンポジウムとして「遺伝子塩基配列決定後の研究戦略」をとりあげ,この分野において実際に研究を展開している4つのグループ[1]William O. C. M. Cookson (Wellcome Trust Centre for Human Genetics, University of Oxford: Asthma and atopic dermatitis: models for genetic and genomic investigations of complex genetic diseases),[2]油谷浩幸(東京大・先端研・ゲノムサイエンス部門:網羅的遺伝子発現プロファイリングによる分子診断−癌ゲノミクス研究への応用),[3]辻本豪三ら(国立小児医療センター・分子細胞薬理:ラット標準遺伝子ライブラリーDNAチップを用いた病態関連発現遺伝子の解析),[4]浅井 聰ら(日本大・医・薬理:GeneChipTMによる虚血時海馬mRNAの発現−ポストゲノム戦略の出発点)から研究成果の報告を受け,今後の戦略について議論した.ゲノム情報に基づく研究は端緒についたばかりであり,当面遺伝型と従来の研究成果を含めた生体機能の表現型との関連性についての情報を蓄積することが重要であると確認された.

キーワード: ゲノム機能科学,遺伝型と表現型,遺伝子発現プロファイリング,遺伝子ライブラリー,バイオ・インフォマティックス

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