日薬理誌 118 (4), 251-257 (2001)


グリアの活性化と脳の老化

菅谷 公伸

University of Illinois at Chicago, Department of Psychiatry, The Psychiatric Institute
1601 West Taylor Street, Chicago, IL 60612, USA
e‐mail: ksugaya@uic.edu
URL: http://www.uic.edu/labs/sugaya


要約: 老化やアルツハイマー病では前脳基底部のコリン作動性神経の脱落が特徴的に見られる反面,脳幹上部に存在するコリン作動性神経はこれらの過程に対して抵抗性が高い.我々はこの2つのコリン作動性神経の間でbrain type nitric oxide synthaseの発現量に違いがある事に注目し,これらの神経でのnitric oxideに対する防御機構の違いが老化やアルツハイマー病に対する抵抗性の違いとなるとの仮説を立てた.この仮説に当たり疑問となるのは老化の過程におけるNOの源が何に由来するかという事である.そこで我々は活性化したグリアがNOを生産する事実に着眼し,老化の過程における記憶障害とグリアの活性化と過酸化ストレスマーカーの遺伝子発現との関連を老化ラットモデルで検討したところ,正の相関関係が見られた.この事は記憶の低下している動物ではグリアの活性化に伴う過酸化ストレスが起きている事を示唆する.また,この動物での過酸化ストレスのターゲットを解析したところ,ミトコンドリアのDNAが記憶障害を伴う群で,有意に過酸化による障害を受けている事が判明した.然し乍らその他の分子,タンパク質,脂質,核のDNAなどへの過酸化による障害の蓄積は観察されなかった.従って,老化やアルツハイマー病に伴う記憶障害ではグリアの活性化からの過酸化ストレスによるミトコンドリアのDNA障害が過酸化ストレスに対する防御の弱い細胞で起きており,このミトコンドリアのDNA障害が原因で生ずるミトコンドリアの機能障害が新たな過酸化障害を起こすと思われる.これら過酸化よる神経細胞への障害が更なるグリアの活性を誘導する事で過剰免疫様の反応に進展し,プログレッシブな脳機能障害を生ずると考えられる.

キーワード: マイクログリア,一酸化窒素(NO),過酸化ストレス,アルツハイマー,ミトコンドリア

日本薬理学雑誌のページへ戻る