日薬理誌 118 (4), 269-276 (2001)


血管平滑筋ミオシン軽鎖キナーゼを標的にしたアンチセンス法の展開とその結果:ゲノム創薬への一つの試み

小浜 一弘,中村 彰男

群馬大学医学部薬理学教室
〒370‐8511 前橋市昭和町3‐39‐22


要約: ミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)はCa2+とカルモジュリン存在下で,血管平滑筋ミオシン軽鎖をリン酸化し,そのATPaseを活性化する酵素として精製された.キナーゼ活性の他に,アクチン結合性やミオシン結合性が知られているように,MLCKは多機能性である.これらのキナーゼ活性以外の性質も,アクチンーミオシンの相互作用を修飾し得ることが著者らの手により解明されて来た.MLCKの種々の機能の生理活性を検討する第一歩として,血管平滑筋細胞内でMLCKのダウンレギュレーション(発現の阻害)を行った.母体には血管平滑筋由来のSM3株細胞を用い,発現プラスミドベクターによりMLCKのcDNAの一部をアンチセンス方向でSM3細胞に導入し,MLCK・mRNAのアンチセンス・RNAを細胞内で発現させた.薬剤耐性を目安にスクリーニングをし,これによりMLCK・欠損株をstable transformantsとして得ることができた.本稿ではこの方法につき解説を加えた.このMLCK欠損株は,血小板由来成長因子(PDGF)に対する遊走能が低下していた.増殖性血管病変では血管平滑筋の形質転換が起こり,平滑筋が増殖しサイトカインに対して遊走するが,上記の実験結果を応用し創薬に結びつけるアイデア,特に(i)増殖指向性のあるレトロウイルスをベクターとして利用すること,および(ii)合成アンチセンスオリゴヌクレオチドの設計・化学修飾に関して言及した.


キーワード: ミオシン軽鎖キナーゼ,血管平滑筋細胞,アンチセンス導入,遊走能の阻害,レトロウイルス・ベクターの利用

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