マイクロフィジオメーターを用いた微少pH変化の検出
谷口 隆信
福井医科大学薬理学教室
〒910‐1193 福井県吉田郡松岡町下合月
e‐mail: takotago@fmsrsa.fukui‐med.ac.jp
要約: マイクロフィジオメーターを用いα1aアドレナリン受容体を発現したCHO細胞において細胞からの酸排出反応を検討した.ノルアドレナリン刺激による細胞外酸性化は二相性の反応で,細胞外酸性化速度(extracellular
acidification rate,EAR)が刺激前の数倍に達し10秒後にピークのあるtransient phaseと,その後ゆっくりと上昇して2分後に刺激前の2倍程度のプラトーに達するsteady
phaseが認められた.何れの相もノルアドレナリンの用量に依存した反応であったがpEC50は前者で5.6,後者で7.2と明らかに異なっていた.Na+‐H+ exchanger
1(NHE1)に特異的な阻害薬であるHOE642によって,何れの相も用量依存的にほぼ完全に抑制されNHEを介してH+の排出が行われていると考えられた.transient phaseにおけるHOE642のpIC50は7.3で,steady phaseにおいては2つのコンポーネントが認められ,pIC50は高親和性の部分が8.2,低親和性の部分が6.0であった.細胞内Ca2+との関係について検討したところ,細胞内Ca2+が枯渇するにつれてtransient
phaseは減弱したがsteady phaseにはほとんど変化が認められなかった.これらの結果からtransient phaseはHOE642に高親和性でCa2+/calmodulinによって活性調節を受けるNHE1によって,steady
phaseはNHE1と少なくとももう一つ別のHOE642低親和性のNHEによって担われている反応だと考えられた.マイクロフィジオメーターは細胞の活性化を細胞外液の酸性化としてとらえる系として開発され,多くの受容体において細胞内の情報伝達経路の違いによらず普遍的に解析ができる系として活用されている.今回私達の手法を用い生理的な条件下で酸排出反応そのものを定量的かつリアルタイムに解析することが可能となった.
キーワード: Na+‐H+ exchanger,マイクロフィジオメーター,HOE642,α1aアドレナリン受容体,CHO細胞
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