日薬理誌 118 (5), 315-320 (2001)


β3‐アドレナリン受容体アゴニスト(過去・現在・未来への展望)

高倉 康人1,2),吉田 俊秀2)

1)市立福知山市民病院 内科
〒625‐8505 京都府福知山市厚中町231
2)京都府立医科大学第一内科(内分泌・糖尿病・代謝内科)
〒602‐8566 京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465
e‐mail: tyoshida@koto.kpu‐m.ac.jp

要約: β3‐アドレナリン受容体(β3‐AR)は白色脂肪組織における脂肪分解と褐色脂肪組織における熱産生に大きな役割を果たしている.1984年に開発されたβ3‐ARアゴニストは肥満動物において著明な抗肥満効果を示したが,初期に開発された薬剤は,ゲッ歯類には著効してもヒトには効果がなかった.この効果差の原因は,1989年になり,ヒトとゲッ歯類のβ3‐ARの化学構造上の種差によることが明確になった.1995年にはヒトβ3‐AR遺伝子のTrp64Arg変異が内臓脂肪型肥満,シンドロームXと強く関連していることが明らかになり,β3‐ARの体脂肪調節に果たす役割の重要性が注目を集めた.β3‐ARアゴニストは褐色脂肪細胞に作用し,熱産生に中心的役割を果たす脱共役タンパク質1(UCP1)を増加させる.さらに白色脂肪細胞および骨格筋にもUCP1を発現させる働きも併せ持つため,褐色脂肪組織の少ないヒト成人においても有効であることが期待されている.近年,脂肪細胞が,レプチン,TNF‐α,PAI‐1といったサイトカインを分泌し高血圧,糖尿病などの発症に密接に関与していることが次々と明らかにされた.これら生活習慣病の根本的な治療として,内臓脂肪量の減量が重要視され,抗肥満薬としてのヒトβ3‐ARアゴニストの開発に期待が高まり,臨床治験が進められている.また,臨床応用時に懸念されるβ3‐ARミスセンス変異の有無による効果の差や,慢性投与時の受容体の発現調節についても興味深い知見が得られている.

キーワード: β3‐アドレナリン受容体(β3‐AR),β3‐ARアゴニスト,β3‐AR遺伝子ミスセンス変異,肥満,UCP1

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