日薬理誌 118 (5), 327-333 (2001)


抗肥満創薬のターゲットとしてのミトコンドリア脱共役タンパク質UCP

斉藤 昌之,大橋 敦子

北海道大学大学院獣医学研究科
〒060‐0818 札幌市北区北18条西9丁目
e‐mail: saito@vetmed.hokudai.ac.jp


要約: 筋肉運動とは別に,食事や薬物によって代謝的熱産生を増やし体脂肪を減少させようとする試みのターゲットとして,ミトコンドリア脱共役タンパク質UCPが注目されている.UCPはプロトン輸送活性を有しており,その名の通りミトコンドリア内膜での酸化的リン酸化反応を脱共役させて,エネルギーを熱として散逸する機能を持っている.代表的なUCPである褐色脂肪細胞UCP‐1の場合,寒冷曝露や自発的多食などで交感神経の活動が高まると,放出されたノルアドレナリンがβ受容体に作用して細胞内脂肪の分解を促し,遊離した脂肪酸がUCP‐1のプロトン輸送活性を増加させると同時に,自ら酸化分解されて熱源となる.更にノルアドレナリンの刺激が持続すると,転写調節因子や核内受容体の作用を介してUCP‐1遺伝子の発現も増加する.従ってこれらの関与分子を活性化すれば,熱産生の亢進と肥満軽減の効果が期待される.事実,β受容体に対する特異的な作動薬を各種の肥満モデル動物に投与すると,エネルギー消費が増加し体脂肪が減少することが確かめられている.最近各種のUCP isoformが発見され,特にUCP‐2は広く全身の組織に,またUCP‐3は熱産生への寄与が大きい骨格筋に高発現していることが明らかになって,肥満との関係に多くの関心が集まっている.現在までに,これらUCPの遺伝子発現の調節については多くの知見が集積したが,今後,脱共役機能自体の解析を進めることが抗肥満創薬において重要である.

キーワード: 脱共役タンパク質UCP,代謝的熱産生,交感神経,脂肪酸

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