日薬理誌 119 (1), 15-20 (2002)


神経細胞死・生存におけるNOの役割

赤池 昭紀,香月 博志,久米 利明

京都大学大学院薬学研究科薬品作用解析学分野
〒606‐8501 京都市左京区吉田下阿達町46‐29
e‐mail: aakaike@pharm.kyoto‐u.ac.jp

要約: グルタミン酸神経毒性はパーキンソン病,アルツハイマー病などの中枢神経変性疾患および脳虚血に伴うニューロン死の危険因子の一つであり,一酸化窒素(NO)はグルタミン酸神経毒性のメディエーターとして重要な役割を果たしている.グルタミン酸−NO系により誘発されるニューロン死は種々の内在因子による制御を受けることが報告されてきた.筆者らはパーキンソン病における中脳黒質ドパミンニューロン死に注目し,ラット胎仔由来中脳ドパミンニューロンにおいて,エストラジオールが細胞内活性酸素を減少することによりNOを介するグルタミン酸神経毒性を抑制することを示した.NOおよびグルタミン酸神経毒性を制御する新規内在性因子を探索する目的で培養線条体細胞条件培地に含まれる神経保護活性物質の精製・単離を試みたところ,その保護活性成分はエーテルにより抽出される低分子量疎水性化合物であり,培養線条体培地に添加されている牛胎仔(FCS)にも含量は少ないものの同様の活性物質が含まれていることを見出した.原料の入手が容易なことからFCSの神経保護活性に注目して研究を続けた結果,側鎖部分にmethylsulfoxideをもつ環状ジテルペンの新規化合物の単離に成功した.ついで,黒質線条体切片におけるドパミンニューロン死を制御する因子の解析を行った.中脳黒質と線条体の共培養下でドパミンニューロンが線条体に線維を投射すると,ドパミンニューロンのグルタミン酸神経毒性に対する抵抗性が増大した.この変化には中脳切片における活性酸素の除去能の亢進が関与することを見出した.以上の結果は,細胞内活性酸素レベルを制御する内在性因子がNOの関与するニューロン死に対する防御機構として重要な役割を果たすことを示唆する.

キーワード: 一酸化窒素,グルタミン酸,神経細胞死,ドパミン,パーキンソン病

日本薬理学雑誌のページへ戻る