日薬理誌 119 (1), 29-35 (2002)


内因性NOS阻害物質と疾病

増田  均1),東   洋2)

東京医科歯科大学大学院
1)医歯学総合研究科尿路生殖機能学
2)生体材料工学研究所分子設計分野
〒101‐0062 東京都千代田区神田駿河台2‐3‐10
e‐mail: hi‐masu.uro@tmd.ac.jp

要約: L‐NMMAとADMAは,生体内で産生されるNOS阻害物質であり,循環器疾患のみならず同領域以外の疾病の発症・進展過程において重要な役割を演じている.タンパク質を構成するアルギニン残基のguanidino窒素がPRMTとSAMとによってメチル化された後,タンパク分解に伴ってL‐NMMA,ADMAおよびSDMAが遊離される.L‐NMMAとADMAのみがNOS阻害活性を有し,全てのNOSアイソフォームを阻害する.L‐NMMAとADMAはDDAHによってL‐citrullineとmethylamine(dimethylamine)とに代謝される.NOSとDDAHとが同一細胞内に共発現していること,また,DDAHの抑制剤によって細胞内にADMAが蓄積しNO産生が抑制される結果,内皮依存性の血管収縮反応が惹起される.DDAHが組織においてADMA濃度を調節していることを示唆する.System yを介する輸送の亢進も細胞内L‐NMMAとADMA濃度調節機構として重要である.酸化LDLやサイトカインによるPRMT発現亢進やDDAH活性低下もADMA増加の一因をなす.高コレステロール血症,鬱血性心不全,動脈硬化,腎不全,高血圧,血栓性末梢血管障害,妊娠中毒症,精神分裂病や多発性硬化症などの患者血漿中にはADMAのみ高濃度に検出されている.一方,内皮損傷後の再生内皮細胞においてL‐NMMAとADMAはともに著しく増加する.また,糖尿病による動脈硬化の増悪や虚血後の尿道弛緩不全の際に内皮細胞または尿道組織のL‐NMMAとADMAはともに増加する.NOSは細胞内に局在しており,血漿中ADMA濃度の上昇が,NOS活性抑制に直接関係しているか否かについては注意を払うべきである.L‐NMMAとADMAは,単にNO産生の抑制にとどまらず,活性酸素を過剰に産生し,内皮機能を低下させることも知られている.

キーワード: 内因性NOS阻害物質,NO生合成阻害,System y,DDAH,動脈硬化

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