日薬理誌 119 (1), 37-44 (2002)


生体内心筋に対する遺伝子導入−拡張型心筋症の遺伝子治療−

河田登美枝1),仲澤 幹雄2),豊岡 照彦3)

1)新潟大学医学部附属病院薬剤部
〒951‐8520 新潟市旭町通1‐754
e‐mail: tomie@med.niigata‐u.ac.jp
2)新潟大学医学部保健学科
〒951‐8520 新潟市旭町通1‐754
3)東京大学医学部器官病態内科学
〒113‐0033 東京都文京区本郷7‐3‐1


要約: 難治性の心不全や突然死を来たす特発性拡張型心筋症は約20%が先天性と推定されている.現在,積極的な治療法は心臓移植に限られるため,特に小児では遺伝子治療が有望視されている.ヒト拡張型心筋症と酷似した病態を示すTO‐2ハムスターはモデル動物として有用であり,細胞膜の安定性を保つdystrophin(Dys)関連タンパク複合体(Dys‐Related Proteins: DRP)の中のδ‐sarcoglycan(SG)遺伝子および全SGタンパクが欠損している事を我々は確定した.同じδ‐SG遺伝子変異によりヒトでも家族性拡張型心筋症を起こすことが知られている.TO‐2の心筋細胞に欠損遺伝子を生体内で強制発現させる遺伝子療法を計画し,その方法を検討した.レポーター遺伝子の発現確認法として組織化学染色よりも免疫組織学的染色の方が感度および特異性の両面で優れていることを示した.組換えアデノ随伴ウィルスベクターに正常δ‐SG遺伝子をCMVプロモーターの下流に組み込み,心筋症ハムスター(5週令)の心筋に開胸手術して導入する.導入10および20週後にδ‐SG遺伝子の転写産物が発現し,心筋細胞に全SGタンパクの発現が認められた.心筋細胞の萎縮も改善し,心筋障害は認められなかった.さらに心血行動態観察より両心の拡張機能および鬱血状態が明らかに改善した.従って組換えアデノ随伴ウィルスベクターを用いたδ‐SG遺伝子補充療法は,心筋症治療にきわめて有効であり,この方法は現在積極的な治療法のない変性疾患の治療にも応用が期待される.

キーワード: 遺伝子治療,拡張型心筋症,組換えアデノ随伴ウィルスベクター,心筋症ハムスター,δ‐サルコグリカン

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