プロテインキナーゼCアイソザイムの細胞機能と病態における役割
−新たな視点からの創薬への応用−
久山 哲廣1),中山 貢一2),斎藤 尚亮3),木原 康樹4),西澤 茂5),小原 一男2),石塚 達夫6)
1)徳島大学薬学部薬理学教室
〒770‐8505 徳島市庄町1‐78‐1
e‐mail: hisa@ph.tokushima‐u.ac.jp
2)静岡県立大学薬学部薬理学教室
〒422‐8526 静岡市谷田52番1号
e‐mail: nakyamk@ys7.u‐shizuoka‐ken.ac.jp,e‐mail:obara@ys7.u‐shizuoka‐ken.ac.jp
3)神戸大学バイオシグナル研究センター 分子薬理分野
〒657‐8501 神戸市灘区六甲台町1‐1
e‐mail: naosaito@kobe‐u.ac.jp
4)京都大学大学院医学研究科循環病態学
〒606‐8507 京都市左京区聖護院川原町54
e‐mail: kihara@kuhp.kyoto‐u.ac.jp
5)浜松医科大学脳神経外科
〒431‐3192 浜松市半田町3600
e‐mail: nisizawa@hama‐med.ac.jp
6)岐阜大学医学部第3内科(現・総合診療部)
〒500‐8705 岐阜市司町40
e‐mail: tishizuk‐gif@umin.ac.jp
要約: 細胞機能の発現及び病態の発症やそれらの維持にプロテインキナーゼC(PKC)が関与していることはよく知られている.本稿では6つのトピックを採りあげPKCアイソザイムという観点からこれらの問題に焦点を当ててみた.斎藤はPKCδが細胞に加えられた刺激の違いにより,異なる細胞内部位にターゲティング(targeting)し,標的部位の違いによりそれぞれ異なる細胞機能を発現することを見いだした.木原はベンゾチアゼピン誘導体であるJTV519がPKCδを選択的に活性化させプレコンディショニング(preconditioning)に類似した抗アポトーシス現象を引き起こし心筋保護作用を表わすことを示した.久山はインターロイキン1受容体が活性化されるとPKCαが活性化されて誘導型NO合成酵素を発現させることをアンチセンス法を用いて示し,PKCαはトランスアクティベーション(transactivation)のステップに関与している可能性を提示した.西澤はイヌ大槽内2回自家血注入による脳血管攣縮モデルを作製し,攣縮発生初期にはPKCδが,攣縮の維持にはPKCαが重要な役割を果たしていることを示した.小原はイヌ脳底動脈の伸展誘発性収縮に伴うミオシン軽鎖のリン酸化において初期にはミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)が,後期にはSrcファミリー〜Rho/Rho‐キナーゼ系を介するミオシンホスファターゼ抑制により見かけ上活性化されたMLCKおよびPKCαが関与することを示した.石塚は糖尿病治療薬として期待される副腎DHEAの作用がPI3‐キナーゼ〜PKCζ系を賦活化することにより糖の取り込みを引き起こしていること,さらに糖尿病性網膜症を合併している患者においては血小板内PKCβ含量が高く血小板凝集亢進に関与している可能性を示した.十余種のPKCアイソザイムのうち,特異な酵素群の活動やそれらの相互作用が重要であることが示された.このことは,PKCアイソザイムの特異的活性の亢進や抑制する薬物の創製および,生命機能や病態への関わりの解明にとっても重要な知見になると考えられる.
キーワード: プロテインキナーゼCアイソザイム,細胞機能,病態,創薬
日本薬理学雑誌のページへ戻る