脳傷害時のアストログリアの機能変化とその細胞内機構
小山 豊
大阪大学大学院薬学研究科複合薬物動態学分野
〒565‐0871 大阪府吹田市山田丘1‐6
e‐mail: koyama@phs.osaka‐u.ac.jp
要約: アストログリアは脳病態時に活性化アストログリアへの細胞形質の転換をおこす.活性化したアストログリアは,細胞体の肥大,特異的遺伝子群の発現,増殖性の獲得を起こし,これらの機能変化は,傷害された神経系の再生過程に重要な作用を持つ.この活性化アストログリアは,新たな脳機能改善薬の標的としての可能性を秘めたものであるが,活性化に伴う機能変化に関わる分子機構については明らかでない.血管収縮ペプチドであるエンドセリン(ET)は,脳病態時に増加し,神経系の病態生理反応への関与が示唆されている.アストログリアに高い発現を示すETBタイプ受容体の病態生理的役割の検討から,この受容体の刺激がアストログリア活性化を惹起することが明らかとなった.培養細胞での検討では,ETがアストログリアの細胞骨格アクチンの再構成により,細胞形態を制御することが示された.この変化はアストログリアの肥大との関連が考えられるが,その細胞内シグナルには低分子量Gタンパクrhoが関与していた.傷害された神経系の再生過程に重要な働きをもつアストログリア由来の神経栄養因子(BDNF,GDNF,bFGF)の産生に対し,ETはこれを促進させた.脳傷害時のグリア瘢痕形成に到るアストログリアの増殖機構を検討し,ETは細胞接着に依存する機構と依存しない機構の両者で増殖の促進を惹起させることが明らかとなった.そして前者には,focal
adhesion kinase(FAK)を介したcyclin D3の発現が,後者には,extracellular signal‐regulated
kinase(ERK)を介するcyclin D1発現が各々関与していた.以上のことは,脳傷害時のアストログリアの機能制御における,薬物標的としてのETB受容体の有用性を示す.
キーワード: 脳傷害,アストログリア,エンドセリン,ETB受容体,脳機能改善薬
日本薬理学雑誌のページへ戻る