レクチン様酸化LDL受容体LOX‐1の同定とその病態生理学的意義の解析
沢村 達也
国立循環器病センター研究所 バイオサイエンス部
〒565‐8565 吹田市藤白台5‐7‐1
要約: 動脈硬化の重要なリスクファクターである高LDLコレステロール血症において,酸化LDLがその生物活性を担っているといわれている.マクロファージは酸化LDLを血管壁で貪食し,特徴的な泡沫細胞へと変化する.その一方で血管内皮細胞にも酸化LDLは働いて,endothelial
dysfunctionとよばれる機能的な変化を誘導する.このとき酸化LDLの働きを内皮細胞上で媒介する受容体のクローニングに筆者は成功し,LOX‐1と名付けた.実際にin
vitroの解析ではLOX‐1を介して酸化LDLによりendothelial dysfunctionの特徴である,NOの放出の減少や接着分子の誘導が起きる.またその発現様式は非常に誘導がかかりやすく,炎症性サイトカインなどにより発現が亢進するとともに,高血圧,高脂血症,糖尿病などの動脈硬化の危険因子によっても発現が亢進し,これらの病態下での動脈硬化の進行にLOX‐1が関与している可能性が考えられる.さらにLOX‐1は酸化LDLのほかに酸性リン脂質を介してアポトーシス細胞や活性化血小板を結合し,血栓形成に何らかの形で関わっている可能性もある.一方LOX‐1を利用して,生体内の酸化LDLのリガンドを検出する系を樹立し,高脂血症などの条件下でのLOX‐1リガンド活性の上昇を検出しており,このような状況下ではLOX‐1を介した作用が,受容体レベルの上昇だけでなく,リガンドレベルの上昇という形でも高まっていることがわかってきた.この系によるLOX‐1リガンドの測定により血管内皮細胞の機能を予測し,虚血性心疾患の危険度を推定できる可能性がある.今後LOX‐1の個体レベルでの機能解析を通じてendothelial
dysfunctionと疾患との関連が明らかになってくることが期待される.
キーワード: LOX‐1,酸化LDL,血管内皮細胞,動脈硬化
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