日薬理誌 119 (3), 155-161 (2002)


分裂酵母モデル系を用いたカルシニューリンの機能解析

杉浦 麗子

神戸大学大学院医学系研究科ゲノム科学講座 
分子薬理・薬理ゲノム学分野
〒650‐0017 神戸市中央区楠町7‐5‐1

要約: カルシニューリン(CN)は,酵母からヒトに至るまで高度に保存されたCa2+/カルモジュリン依存性タンパク質脱リン酸化酵素であり,免疫抑制薬FK506,シクロスポリンAの標的分子である.免疫抑制薬,シクロスポリンAおよびFK506は,イムノフィリンと結合し,さらにCNと複合体を形成し,CNの酵素活性を阻害することにより免疫抑制効果を発揮する.CNは免疫応答や心臓発生,さらには神経可塑性(LTP,LTD)など,多種多様な生体機能に関与する事が明らかにされてきたが,従来の生化学的手法や細胞生物学的手法のみでは,これらの機構を分子レベルで解明することは,困難であった.我々は,哺乳動物に極めて近い細胞内情報伝達系を持つモデル生物である分裂酵母においてもCNがFK506の標的分子であることに着目し,CNと機能的に関連する因子を遺伝学的アプローチにより同定し,機能解析を行うことで,CNを介するシグナル伝達経路を分子レベルで解明しようと考えた.その結果,分裂酵母CN遺伝子はClホメオスタシスに必須であること,CNシグナル経路は哺乳動物のERKと相同な経路であるPmk1 MAPキナーゼ経路と拮抗的にClホメオスタシスを制御することを明らかとした.さらに分裂酵母CN遺伝子をノックアウトしても致死ではないことに着眼し,CN遺伝子破壊と合成致死になる変異体のスクリーニングを行った.その結果,分裂酵母CN遺伝子は,phosphatidylinositol‐4‐phosphate 5‐kinaseなどの遺伝子とともに,細胞質分裂などの生理現象の制御に関わっていることが明らかとなってきた.本論文では,分裂酵母モデル系を用いた筆者らの研究を中心に,CNの細胞機能,およびその作用経路について述べる.

キーワード: カルシニューリン,FK506,免疫抑制薬,分裂酵母モデル系,MAPキナーゼ

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