うつ病ならびに三環系抗うつ薬治療抵抗性うつ病におけるHPA系の関わり−5‐HT神経機能異常からのモデル作成の試み−
北村 佳久,荒木 博陽,五味田 裕
岡山大学医学部附属病院薬剤部
〒700‐8558 岡山市鹿田町2‐5‐1
e‐mail: ykita@cc.okayama‐u.ac.jp
要約: 従来よりうつ病の発症機序についてはモノアミン欠乏説,受容体感受性亢進説などが提唱されてきた.しかし,これらの仮説には矛盾する点も多く,現在においても明確な発症機序についての結論はない.一方,うつ病は中枢神経系の異常のみならず視床下部‐下垂体‐副腎(hypothalamic ‐pituitary‐adrenal:HPA)系の機能異常を含む中枢神経系‐内分泌系の機能異常が深く関与しているといわれている.本稿では抗うつ薬の作用機序およびうつ病の病態に深く関与しているserotonin(5‐HT)‐HPA系の相互作用とうつ病との関連性について紹介する.動物に反復のストレス負荷およびHPA系の活性化により5‐HT2受容体機能は亢進し,うつ病の病態との類似性が考えられる.ACTH反復投与によるHPA系過活動モデルではイミプラミン反復投与による5‐HT2受容体ダウンレギュレーションが消失し,さらに抗うつ薬スクリーニングモデルである強制水泳法におけるイミプラミンの不動時間短縮作用も抑制される.つまり,HPA系過活動モデルは三環系抗うつ薬治療抵抗性うつ病の動物モデルとしての可能性が考えられる.これまでコルチコイド受容体や5‐HT受容体サブタイプの神経化学的および分子生物学的研究は進んでいるが,今後トランスジェニックマウスまたはノックアウトマウスなどを応用し,行動薬理学的研究および神経科学的研究によりうつ病の病態メカニズムおよび抗うつ薬作用機序の解明などの重要性が増すと思われる.
キーワード: うつ病,治療抵抗性うつ病,セロトニン,HPA系,動物モデル
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