日薬理誌 120 (3), 141-148 (2002)


薬理ゲノミクスからゲノム創薬/医療への展開

田中 利男1),辻本 豪三2),杉山 雄一3),橋本 易周4)

1)三重大学医学部薬理学教室
(〒514‐8507 津市江戸橋2‐174)
2)国立成育医療センター研究所薬剤治療研究部
(〒154‐8587 東京都世田谷区太子堂3‐35‐31)
3)東京大学薬学系研究科製剤設計学
(〒113‐0033 東京都文京区本郷7‐3‐1)
4)株式会社メディビック
(〒100‐6012 東京都千代田区霞が関3‐2‐5霞ヶ関ビル12F)
e‐mail: tanaka@doc.medic.mie‐u.ac.jp


要約: ポストゲノムシークエンス時代に入り,薬理ゲノミクス(pharmacogenomics)/ケモゲノミクス(chemogenomics)が急激な発展を示し,ゲノム創薬やゲノム医療への展開が著しく認められる.ヒトゲノムシークエンスプロジェクトの成果を基盤としたゲノムサイエンスは,創薬科学の研究戦略においても,極めて短期間にパラダイムシフトを起こした.すなわちゲノム創薬の誕生である.ゲノム創薬とは,ヒトゲノムシークエンス後の遺伝子多型(ゲノム),遺伝子発現プロファイル(トランスクリプトーム),プロテオームにおける包括的機能解析を基礎に,ヒトゲノム上の総ての新しい創薬ターゲットを効率良く探索し,新しい薬物療法を可能にするだけではなく,患者個人の遺伝子多型情報に基づいた至適薬物療法(テーラーメイド医療)を実現するものである.このゲノム創薬の基盤となる薬理ゲノミクス/ケモゲノミクスは,創薬ターゲットバリデーションや薬物作用/薬物動態の統合的理解を導くことが期待されており,薬物応答性や副作用をゲノムレベルで解明,予測しようとするものである.薬理ゲノミクスにおいて,特にトランスクリプトーム解析が重要な研究戦略である.またin vivoやin vitroの莫大な薬理ゲノミクス情報からin silicoでのデータマイニングを可能にするため,バイオ/ゲノムインフォマティックスとケモインフォマティクスを統合したファルマインフォマティクスの構築が不可欠である.


キーワード: 薬理ゲノミクス,ターゲットバリデーション,テーラーメイド医療,トランスクリプトーム,ファルマインフォマティクス

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