日薬理誌 120 (3), 173-180 (2002)


行動薬理学的側面からみた精神疾患モデルとその妥当性

山本 経之1),釆  輝昭1),2)


1)九州大学大学院薬学研究院薬効解析学分野
(〒812‐8582 福岡県福岡市東区馬出3‐1‐1)
e‐mail: tyamamot@phar.kyushu‐u.ac.jp
2)大日本製薬株式会社 薬理研究所
(〒564‐0053 大阪府吹田市江の木町33‐94)

要約: 精神疾患の動物モデルは,その根底に存在する神経機構の解明や前臨床における新規化合物の治療効果の予測を行う上において欠くことが出来ない.しかし当然のことながら,動物の脳内で起っている事とヒトの脳内で起っている事が等しいという証拠を見い出せない為に,適切な精神疾患の動物モデルを確立することは極めて困難である.ヒトにおける精神疾患の初期の動物モデルは,ヒトと動物で観察される行動上認められる症状の類似性,即ち“表面妥当性”(face validity)に基づいたものが多かった.その後,行動系の変容と神経系の変容との関連性が,動物での変化とヒトの臨床像との間で認められるか否かという“構成妥当性”(construct validity)に基づいた動物モデルの開発もなされるようになってきた.動物モデルの実際的な有用性は,結局,精神疾患に対する新規化合物の臨床効果を予測する“予測妥当性”(predictive validity)にある.本稿では,主に,精神疾患患者の症状に類似した症状を引き起こすことが期待できる環境ストレスや薬理学的処置による分裂病とうつ病の動物モデルに焦点を当て,これらの妥当性を考慮に入れながら概説する.


キーワード: 精神疾患,分裂病,うつ病,動物モデル,前臨床評価法

日本薬理学雑誌のページへ戻る