ラット皮膚血管透過性に及ぼす輸液製剤の影響
川崎 真規,木村伊佐美,松田 晃彦,片岡美紀子,国場 幸史
へキスト・マリオン・ルセル(株)
医薬情報開発本部 輸液研究部
〒520-23 滋賀県野洲郡野洲町大篠原1658番地
要旨: 末梢静脈栄養法 (peripheral parenteral nutrition : PPN) により栄養管理を行う際に最も問題となる合併症として,血管痛および血栓性静脈炎の発生が挙げられる.今回われわれは,血管痛および血栓性静脈炎発生の有無を前臨床段階において評価できる方法を確立する目的で,被験液のラット背部皮内注射による皮膚の血管透過性に及ぼす影響について検討した.被験液をラット背部に皮内注射し,15,
30および60分後にエバンスブルーを尾静脈内注射して,その60分後に背部皮膚の青染面積を計測した.1)
市販輸液製剤 (solution 1) の皮内注射では,15, 30および60分のいずれの時間においても色素漏出面積の有意な増加は観察されなかった.一方,臨床において血管痛の発生率の高かった輸液製剤
(solution 2) の注射では,30および60分において色素漏出面積の有意な増加が観察された.2)
生理的食塩液に対する浸透圧比が約4のグルコース溶液の皮内注射によって,色素漏出面積は15および30分の時間において有意に増加した.3)
滴定酸度の異なる酢酸緩衝液を用いた検討において,色素漏出面積は,滴定酸度に依存して増大した.4)
solution 1にL-乳酸,酢酸あるいは塩酸を添加してpH 4.43に調整した被験輸液を皮内注射した場合,色素漏出面積に及ぼす影響は以下の順で強かった:
酢酸 >> L-乳酸 > 塩酸.以上の結果より,皮内注射によるラット皮膚の血管透過性反応を用いた評価系は,注射液の浸透圧,pH,
滴定酸度等によって影響され,血管痛および血栓性静脈炎の発生を予測する評価系として有用であることが示唆された.
キーワード:血管痛,血栓性静脈炎,輸液,血管透過性,ラット
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