亜鉛錯体のマウス消化管からのエタノール吸収に対する阻害効果とその機構
田中 政充,夏木 令子
摂南大学薬学部毒性学教室
〒573-01 大阪府枚方市長尾峠町45-1
要旨: システイン亜鉛錯体 (Cys-Zn) およびアセチルシステイン亜鉛錯体
(AcCys-Zn) をマウスに経口投与し,エタノール吸収に対する阻害効果を検討した.マウスに,Cys-Zn
および AcCys-Zn を経口投与し,1時間後に14C-エタノールを経口または腹腔内投与した.14C-エタノール投与後20分から5時間まで経時的に尾静脈より採血を行い,14C-放射活性を測定した.Cys-Zn
および AcCys-Zn 投与群は,経口投与した14C-エタノールの血中への移行を顕著に阻害した.システインおよび亜鉛アセテートは,エタノールの吸収に影響を及ぼさなかった.一方,Cys-Zn
投与群は,腹腔内投与したエタノールの血中への移行を抑制しなかった.Cys-Zn
を経口投与後,14C-エタノールを経口投与し,その後,1, 3, 7時間での14C-放射活性および亜鉛の臓器内分布を測定した.エタノール投与後,1,
3, 7時間いずれにおいても胃ではCys-Zn 投与群は対照群に比べ有意に高い放射活性を示した.その他の臓器では対照群に比べ低値を示した.亜鉛は,Cys-Zn
投与後,2, 4, 8時間まで胃腸内に多量に存在した.Cys-Zn 投与後,14C-エタノールを経口投与し,投与後72時間まで経時的に尿および糞を採取し,14C-放射活性を測定した.尿および糞中の14C-放射活性は,投与した14C-放射活性に比べて低値を示し,それぞれ約5%および0.5%であった.14C-エタノールを経口投与し,投与後5時間まで経時的に呼気を捕集し,14C-放射活性を測定した.5時間後の呼気中の14C-放射活性の累積値は,投与した14C-放射活性に対し両群とも約28%
であった.また,in vitro の実験において,Cys-Zn は小腸でエタノールのアセトアルデヒドおよび酢酸への代謝を著しく促進した.以上,Cys-Zn
および AcCys-Zn はエタノールの吸収阻害剤として有用であることが示唆された.
キーワード: エタノール,吸収,代謝,マウス,亜鉛錯体
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