日薬理誌 112 (2), 107-116 (1998)


新規抗潰瘍薬T-593と光学異性体の薬理学的特性

荒井 博敏,森 由紀夫,水尾 美登利,浦田 紀子,小前 憲久,土井 康子

富山化学工業(株)綜合研究所
〒930-8508 富山県富山市下奥井2丁目4の1

要約: T-593は胃酸分泌抑制作用に加え,胃粘膜血流改善作用を有する新規抗潰瘍薬であるが,(-)-S-体と(+)-R-体のラセミ体である.今回,各光学異性体の胃酸分泌抑制作用,胃粘膜血流改善作用,抗潰瘍作用および静脈内投与毒性を調べ,T-593と比較した.1. 胃酸分泌抑制作用 :(-)-S-体とT-593のED50値は各々3.8, 6.2 mg/kgであったが,(+)-R-体は100 mg/kgで作用を示さなかった.2. 胃粘膜血流改善作用 :(+)-R-体は0.03 mg/kg/hrから,(-)-S-体は3 mg/kg/hrで改善作用を示した.3. 抗潰瘍作用 :1) 急性胃十二指腸粘膜傷害:水浸拘束ストレス胃粘膜傷害とインドメタシン胃粘膜傷害では(-)-S-体とT-593は有意な抑制作用を示し,ED50値の比較では(-)-S-体はT-593の約2倍の強さを示した.レセルピン胃粘膜傷害では(-)-S-体は30 mg/kg,T-593は10 mg/kgで抑制作用を示した.メピリゾール十二指腸潰瘍では(-)-S-体とT-593のED50値は共に2.2 mg/kgであった.一方,(+)-R-体はこれらの急性胃十二指腸粘膜傷害モデルに対して殆ど作用を示さなかった.2) 慢性胃潰瘍治癒促進作用 :T-593は30 mg/kgで有意な促進作用を示したが,各光学異性体は作用を示さなかった.4. ラット静脈内投与毒性:各光学異性体のLD50値は共に約100 mg/kgであった.以上のことより,(-)-S-体は胃酸分泌抑制作用を,(+)-R-体は胃粘膜血流改善作用を示し,両作用を併せ持つT-593は抗潰瘍作用において,各光学異性体より優れた潰瘍治癒促進作用を示した.


キーワード: T-593,光学異性体,酸分泌抑制作用,胃粘膜保護作用,潰瘍治癒の質 (QOUH)

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