日薬理誌 112 (3), 221-232 (1998)


マウスのI型(即時型および遅発型)および「型(遅延型)皮膚アレルギー

反応に対するタクロリムス軟膏の作用

仙石 隆則,森田 恭子,佐藤 幸夫,佐久間庄三, 小川 利一,広井 純,藤井 隆,後藤 俊男

藤沢薬品工業(株)薬理研究所
〒532-0031 大阪府大阪市淀川区加島2-1-6

要約: タクロリムス軟膏はアトピー性皮膚炎治療剤として現在開発中の薬剤であり,臨床試験において優れた治療効果を示している.アトピー性皮膚炎は,その病態の発症および進展に,IgE介在性のI型アレルギー反応である即時型および遅発型反応の関与が,その病態の難治化に「型アレルギー反応である遅延型反応の関与が示唆されている.今回,タクロリムス軟膏のアトピー性皮膚炎に対する有用性の評価のために,マウスの即時型,遅発型および遅延型皮膚反応に対する作用並びにマウスの皮膚萎縮作用についてステロイド軟膏と比較した.タクロリムス軟膏は,2 相性皮膚反応の即時型耳浮腫反応並びに受身皮膚アナフィラキシー反応には抑制作用を示さなかった.しかし.2 相性皮膚反応の遅発型耳浮腫反応に対して,1%の濃度で抑制作用を示した.また.遅延型耳浮腫反応に対しては, 0.1%以上の濃度で明確な抑制作用を示した.従って,タクロリムス軟膏のアトピー性皮膚炎での優れた治療効果は,主にこれらの遅発型および遅延型反応の抑制に基づいていると考えられた.一方,ステロイド軟膏は,即時型,遅発型および遅延型の全ての耳浮腫反応に対してタクロリムス軟膏よりも強い抑制作用を示した.しかし,正常マウスの耳の菲薄化が観察され,これらのステロイド軟膏の作用には一部皮膚萎縮作用が寄与していると考えられた.また,ステロイド軟膏は遅延型反応モデルの感作期間のみに塗布し,反応を誘発すると遅延型耳浮腫反応を増強するリバウンド現象を引き起こした.タクロリムス軟膏には,上記のステロイド特有の皮膚萎縮作用およびリバウンド現象は認められなかった.以上のことから,タクロリムス軟膏は,アトピー性皮膚炎の治療においてステロイド軟膏よりも有用度が高い薬剤になる可能性が示唆された.

キーワード: タクロリムス軟膏,ステロイド軟膏,アトピー性皮膚炎,I型皮膚アレルギー反応,「型皮膚アレルギー反応

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