日薬理誌 113 (2), 73-83 (1999)


代謝活性型グルタミン酸受容体:リガンドの開発と嗅覚情報伝達での役割の解明

林 康紀

Cold Spring Harbor Laboratory, Jones Building, 1 Bungtown Road, Cold Spring Harbor, NY 11724, USA

要約: 代謝活性型(メタボトロピック型)グルタミン酸受容体(mGluR)には8つのサブタイプが存在するが、それぞれの機能については特異的なリガンドの欠如もあり不明な点が多かった。この一連の研究では、種々のグルタミン酸アナログのmGluRのリガンドとしての活性を、各サブタイプを発現した細胞株のセカンドメッセンジャーを測定することで検討した。その結果、(2S,1'R,2'R,3'R)-2-(2,3-dicarboxycyclopropyl)glycine (DCG-IV)がサブグループIIの特異的なアゴニスト、(+)-alpha-methyl-4-carboxyphenylglycine (alphaM4CPG)がmGluR1とmGluR2の両者に対するアンタゴニストとして同定された。次にDCG-IVを用い、mGluR2が副嗅球樹状突起間シナプスにおいて顆粒細胞からのGABAの放出をシナプス前性に抑制していることを見出した。この機構により僧帽細胞がGABAによる抑制から解除され、周辺の僧帽細胞への側方抑制をかけると考えられた。また、雌マウスの副嗅球にDCG-IVを注入することで、mGluR2の活性化が妊娠阻止現象にて観察されるのと同様の嗅覚の記憶を引き起した。この一連の研究は中枢神経に於ける特定のmGluRサブタイプの機能を明らかにした初めてのものである。

キーワード: 代謝活性型グルタミン酸受容体、グルタミン酸誘導体、リガンド、構造活性相関、嗅覚

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