日薬理誌 113 (2), 85-95 (1999)


慢性脳循環障害モデルとしての両側総頸動脈永久結紮ラットの有用性

南里 真人,渡辺 裕司

富山医科薬科大学和漢薬研究所生物試験部門
〒930-0132 富山県富山市杉谷2630

要約: 慢性脳循環障害モデルとして両側総頸動脈永久結紮(2VO)ラットを用い,その有用性について検討を行った.2VO処置1-3 日後で白質の粗鬆化および海馬での神経細胞の萎縮がみられた.また,綿条体では2VO処置7 日目に脳梗塞巣が確認された.樹状突起の指標としてMAP2,反応性アストロサイトの指標としてGFAPの免疫学的検討を行った結果,皮質および海馬での組織的変化には樹状突起の消失が伴っていた.また,2VO処置3-7 日後の組織障害部位には反応性アストロサイトが発現しており,30日後では大脳皮質・海馬において明らかな増加がみられた.8方向性放射状迷路学習課題では,2VOラットに明らかな学習障害がみられた.アルツハイマ一病における記憶・学習障害の治療薬として処方されているコリンエステラ一ゼ阻害薬THA(9-amino-1,2,3,4-tetrahydroacridine)の投与により,2VOラットの学習行動障害に改善作用がみられた.THAは術後1カ月以上経過したラットにおいても学習障害改善作用が認められたが,薬剤投与を中止することで学習障害が再発した.また,ニコチン性アセチルコリン受容体アゴニストであるGTS-21 (3-(2,4-dimethoxybenzylidene)-anabaseine dihydrochloride)は,2VO処置前から投与すると,学習障害および脳組繊障害に対し保護効果がみられた.以上, 2VOラットは慢性脳循環不全モデルとして脳組織障害および学習障害をともない,臨床症状と非常に類似していた.2VOモデルは,慢性脳循環障害を伴う痴呆症の病態解明ならびに薬剤の開発にあたり有用なモデルであると考えられる

キーワード: 慢性脳循環障害,両側総頸動脈,多発性脳梗塞,迷路学習,ラット

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